コロナ恐れすぎの活動抑制は人口減を加速する 日本の新型コロナ対策に大転換が必要なわけ

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とはいえ、失業率が大きく上昇することには変わりない。失業率が少なくとも1%ポイント上昇すると予想されるため、過去の連動性を踏まえると、経済・生活問題による自殺者は年2000人程度は増えることが見込まれる。

さらに、一定の前提を置くことによって、年齢別の自殺者を予測することもできる。経済・生活問題による自殺者は20代から増え始めて50代でピークに達し、70代以降は急減するという特徴がある。家計を支える現役世代が、生活苦で自殺に追い込まれやすいからだろう。したがって、今後予想される自殺者の増加も、40代、50代、60代が中心になると思われる。

「がん」など他の病気による死者が増える

外出の抑制によって病院診療や健康診断が落ち込んでいることも懸念材料だ。

医学雑誌『ランセット』(Lancet)に7月に掲載された論文を紹介したい。『新型コロナ流行による診断の遅れが英国のがん死亡に及ぼす影響』(The impact of the COVID-19 pandemic on cancer deaths due to delays in diagnosis in England, UK: a national, population-based, modelling study.)と題された分析では、英国で行われたロックダウンによりがんの診断が遅れ、死者がどれだけ増えるかを試算している。これによると、5年後における死者の増加率は、肺がんで4.5~5.3%、食道がんで5.8~6.0%、乳がんで7.9~9.6%、大腸がんで15.3~16.6%という結果が得られている。

もちろん、この予測値をそのまま日本に当てはめることはできない。日本では英国ほど厳しいロックダウンは行っておらず、診療所・病院へのアクセスなど医療体制も大きく異なっている。しかし、診断の遅れによる症状悪化のリスクは、多くの医療関係者が指摘している点である。

実際、消費者の支出統計をみても、病院診療や健康診断を控えている様子が明らかである。総務省『家計調査報告』によれば、医療診療代は増加傾向をたどってきたものの、今年に入ってから一転してマイナスに変わった。人間ドック等受診料も、サンプルが少ないため上下変動が激しいものの、緊急事態宣言が発令された4月ごろから大幅に落ち込んでいる。

ちなみに、「がん」は長らく日本人の死因第1位であり、国立がん研究センターによれば、2019年の罹患者は102万人、死亡者は38万人と推計されている。診断の遅れで一部の罹患者の治療が手遅れになるだけでも、無視できないインパクトになるだろう。

診断の遅れによるマイナス影響はがんだけにとどまらない。いわゆる生活習慣病として位置づけられる心疾患、脳血管疾患、糖尿病、高血圧性疾患による死亡も年間34万人に達する。外出自粛で健康悪化リスクが高まっていることに加え、早期発見・早期治療にも支障を来すことになれば、生活習慣病による死亡を増やすことにもなりかねない。

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