コロナ恐れすぎの活動抑制は人口減を加速する 日本の新型コロナ対策に大転換が必要なわけ

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意外に思われるかもしれないが、新型コロナ対策の副作用は少子化にも現れる。これは、所得環境の悪化により、結婚件数が減少するからである。

わが国では趨勢的に晩婚化・非婚化が進んでいる。その原因としてさまざまな点が指摘されている。結婚観の変化、女性の社会進出、マッチング機会の低下、等々。

そして、経済的要因も結婚を左右する1つのポイントである。とくに、男性の結婚行動は、就業・所得状況に大きく左右される。実際、男性人口のうち配偶者を持つ比率(有配偶率)をみると、非就業者は就業者の半分程度にすぎない。経済力が伴わなければ結婚が難しいことを如実に表す統計といえる。

なお、就業状態で有配偶率に大きな違いが出るのは男性だけである。女性はむしろ、非就業者のほうが有配偶率が高くなっている。これらの統計からは、「男性が家計を支え、女性は結婚したら仕事を辞めて専業主婦になる」という慣習が根強いことが示唆される。

結婚件数が3.3万減り、出生数も6.4万減る

ともあれ、結婚は相手あってのものであるため、結婚が困難な男性が増えれば、結婚件数も減少せざるをえない。では、景気悪化によって、結婚件数はどれくらい減るだろうか。

ここでは、39歳以下の男性のうち1%が失業するケースを想定する。この場合、17.3万人の若年男性が、有配偶率の高い就業者から有配偶率の低い非就業者にシフトする。この結果、就業状態別の有配偶率が変わらないとすれば、男性の有配偶者は3.3万人減少する。当然、同数の結婚件数が減ることになる。

わが国では、夫婦間における最終的な出生数を表す「完結出生児数」は1.94である(2015年)。つまり、結婚すれば平均2人の子どもを産んでいる。これを機械的に適用すれば、3.3万人の結婚減少は、出生数を6.4万人減らす要因になる。もちろん、これは直ちに起きる現象ではなく、就業率が1%低下した状態が長期化した場合の最終的な帰結である。しかし、わが国最大の課題とされる少子化が、新型コロナ対策によって一段と加速する可能性があることは無視できない問題である。

これまでの新型コロナ対策は、「予防策を講じて感染者を減らす」という部分均衡的な視点で策定されてきたと思われる。これを、一般均衡的な視野に広げるべきだ。現在の新型コロナ対策には無視できない副作用が存在する。その副作用の多くは、これからさらに拡大していく。これは、新型コロナのリスクに見合うだけの犠牲と言えるのであろうか。一面だけにとらわれない総合的な判断力をもって、新型コロナ対策を議論し、構築することが望まれる。

枩村 秀樹 日本総合研究所 調査部長・チーフエコノミスト

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まつむら ひでき / Hideki Matsumura

日本総合研究所 調査部長・チーフエコノミスト。1992年東京大学経済学部卒業、住友銀行入行。1995年日本経済研究センターに出向。韓国・タイ経済、日本経済、少子高齢化・産業構造変化などを担当。2014年内閣府 経済財政諮問会議 民間議員室に出向。2016年日本総合研究所マクロ経済研究センター所長、2019年7月から現職。

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