成功体験が多い人ほど「ない答え」を求める訳 医療の現場では正解がない場面に多く遭遇する

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大塚篤司(おおつか あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医(写真:AERA dot.)

現代医学でも治せない病気は多く存在します。

そのことを受け入れることはとても難しいことです。

きっと世界のどこかに治す方法があるはずだ。

人生で成功体験を多く積み重ねてきた人ほど「ない答え」を求めてしまうように思います。

正しい解決策の存在を信じ、それを探し出す力。

これがネガティブ・ケイパビリティーの反対の概念であるポジティブ・ケイパビリティーです。

2018年に発表された論文では、がんの標準治療を受けた患者さんに比較して、代替療法のみを受けた患者さんのほうが予後が悪かったというデータが出ています。

さらにこの研究から、代替療法を選ぶ患者さんの特性として、社会的地位の高い人や経済的に豊かな人があげられています(JNCI. 110, 121-124, 2018)。

なぜすぐに答えを見いだそうとしてしまうのか

科学的に根拠のない民間療法を唯一の正解として盲信してしまうのは、ポジティブ・ケイパビリティーを鍛え上げてきた人の弱点とも言えます。

ネガティブ・ケイパビリティーではなく、ポジティブ・ケイパビリティーを発揮してしまうのは患者さんに限った話ではなく、医療従事者も同じです。

『「この中にお医者さんいますか?」に皮膚科医が…… 心にしみる皮膚の話』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

慢性疾患の患者さんに冷たく「治りません」と言い放ってしまう医療従事者は、病気を受け入れられない患者さんを見続けるのがつらい、と感じた結果の言動なのかもしれません。

いまの世の中を見回してみると、私を含めネガティブ・ケイパビリティーが足りないと感じる場面が多く存在します。

新型コロナウイルス感染症をめぐっては、感染症対策を優先するか経済をとるかの二元論で議論を進めがちです。

もしかしたら、対策としての正解は見つかっていないのではなく、すでに私たちが実践している内容にあるのかもしれません。

答えが見えない苦しい状況を耐え抜く力。

ネガティブ・ケイパビリティーは現代社会に生きる私たちがいまこそ必要な能力ではないでしょうか。

AERA dot.
あえらどっと

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