「日本の近現代史」が歪められるのはなぜか 歴史修正主義に対抗する「国民の物語」が必要

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近現代の歴史を学校・学校外でどう教え、どう伝えるべきか(写真:ロイター/アフロ)
慰安婦問題や徴用工問題など、日韓間で幾度も繰り返される歴史認識問題。さらには自国に都合よく歴史を捉える歴史修正主義も蔓延している。
これらの歴史問題が炎上する背景には何があるのか。また、アカデミズム、メディア、そして社会は、歴史問題にどう向き合えばよいのか。このたび『教養としての歴史問題』を上梓した、前川一郎、倉橋耕平、呉座勇一、辻田真佐憲の4人の気鋭の研究者による同書の座談会部分を抜粋してお届けする。
第2回は、近現代の歴史を学校で、また学校外でどう教え、伝えるべきかについて議論する。

植民地主義を学校でどう教えるのか

前川:ここからは、もう少し未来の話をしてみたいと思います。歴史学の未来や、歴史教育とどう向き合うかといったことや、学知と社会はどういう関係を構築していけるのかといった問題です。

『教養としての歴史問題』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

倉橋:いま台湾人研究者のレオ・チンさんが書いた『Anti-Japan』という、東アジア諸国の「反日」についての著作を翻訳しているのですが、そのなかで、チンさんは日本の「SEALDs」と台湾の「ひまわり運動」、香港の「雨傘運動」に参加し活動する学生や若者たちの意識を比較し、台湾や香港の学生に比べ、日本の若者は戦後民主主義のあり方や、植民地問題に関する歴史について非常に無頓着であると指摘しています。

ぼくも大学で学生と接していて、学生たちに植民地主義についての認識がないことや、そもそも日本の近代史について十分に教育を受けていないことを感じています。例えば、「慰安婦」問題について、多くの学生は日韓のナショナリズム問題としか捉えていません。

そこで、前川さんに伺いたいのですが、植民地主義に関して、旧宗主国や旧植民地の国々では、どのような歴史教育を行っているのでしょうか。

前川:一般論として簡潔にお答えします。イギリスに関しては『教養としての歴史問題』で触れたとおりで、歴史教科書は植民地主義の功罪を“客観的”“中立的”に書くというスタンスです。フランスも大差ないというのが私の印象です。

一方、敗戦国のドイツは日本と似ていて、そもそも戦争や植民地主義の歴史について、とくに前者について自由に語ることが許されなかったためなのか、非常にフラットな印象の教科書になっています。帝国主義の歴史についての記述は簡略で、日本で教えているような事実関係を淡々と記しています。

スペインは、ちょっとユニークです。ご存じのとおり、スペインは近代植民地主義のトップランナーだったわけですが、南米大陸の文化の変容に関する記述が中心で、19世紀的な植民地主義はメインテーマではありません。

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