「社会貢献するカリスマ経営者」ベニオフの素顔 会社は「価値観」で成長するかしないかが決まる

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しかし、同時に、「未来は君たちにある」と言って、社員の士気や意識を上げることにも、余念のない人でした。

厳しく、きつかった一面もありましたが、今になってみると、あの緊張感が懐かしく、もう一度味わってみたいという気持ちも残っています。両面あわせて、それほど強いインスピレーションを受けるのです。

ベニオフさんは、よく社員に対して「I'm here for your success」「because of you」というフレーズを使います。数字がどうこうだけではなく、「あなたを成功させることが僕の仕事だ」「この成功はあなたたちのおかげだ」とはっきり言ってくれます。

私は、日本でのセールスのやり方について彼に叱責されたことがありました。しかし、納得がいかず、クビを覚悟で反論を試みたことがありました。すると、彼から「よくわかったよ。僕はあなたのファンだ」と言われたのです。これには、正直ぐっときました。彼の根幹がそこにあることも、重要なのだと思いますね。

ビジネスの成長を生む「価値基準」

『トレイルブレイザー』には「V2MOM」というフレームワークが登場します。ビジョン(Vision)、バリュー(Values)、手法(Methods)、障害(Obstacles)、評価基準(Measures)の頭文字をとったものですが、ベニオフさんは、とくに価値基準を非常に大切にする方です。

ある年の「V2MOM」を作るための会議がありましたが、そのとき、おのおのがセールスフォースの価値基準として「信頼(トラスト)」「成長(グロース)」「顧客の成功(カスタマーサクセス)」などを挙げていきました。

すると、ベニオフさんが「カスタマーサクセスとグロースはどっちが大事なのか? トラストとカスタマーサービスでは?」と順位づけを始めたのです。

当時の私は、そんなことはまったく考えたことはありませんでした。しかし、てんびんにかけてみると、どれが本当に重視すべきことで、そのためにはどんな行動を取るべきなのかを見いだすことができます。

この会議では、「トラスト」が最上位になりました。日本で一般的に考えられる信頼関係というよりは、システムそのものの信頼性という意味です。たしかに、それが失われると顧客も成功もありません。

ですから、社内のリソース、開発も含めてシステムの安定稼働を目指そう、それがお客様が安心して使えるものにするための最優先の価値基準だというように、戦略までが決まるのです。このことは、その後、私が起業した際にも役立ちました。

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