ソフトバンク孫正義氏が「守勢」を迫られた事情 ビジョンファンドの含み損を挽回できるか

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「ユニコーンハンター」を自称する孫氏は、「AIによる既存産業のデジタル化はコロナで加速すると思っている。信念や戦略は変わらない。2号ファンド、3号ファンドと続けていく」と強調する。

産業のデジタル化の必要性が叫ばれる中、AIなどソフトウェア領域のベンチャーにはビジネスチャンスが多い。テクノロジーに特化した投資会社として攻めるべき局面ともいえるが、以前のような勢いはない。

4.5兆円資金化計画にメド

今回の決算で孫氏が繰り返したのは「守りを固める」ことだ。「投資会社に生まれ変わったSBGだが、いろいろな負債を抱えている中で最大の防御は現金だ」と語った。

3月には4.5兆円分の保有資産を売却・資金化する計画を発表。当初は1年をかけて実行する予定だったが、アリババ株の先渡売買契約やTモバイル株の売却などにより、8月3日までに4.3兆円分のメドを付けた。6月末時点で保有する現金および現金同等物は6.1兆円。3月末と比べて2兆8000億円増えた。

また、孫氏は今回、2016年に3.3兆円で買収したイギリスの半導体大手アームの売却にも初めて言及。「興味があるという相手も現れたので、一部または全株を売却することも選択肢として検討している」と述べた。アメリカの半導体大手のエヌビディアなどとの交渉がすでに報じられており、具体的な交渉相手はノーコメントとしたが、売却が実現すれば財務基盤はより安定する。

さらに投資運用子会社を新設し、余った資金をIT分野の上場株で運用することも明らかにした。資本金は600億円で、3分の2をSBGが出資し、残りの3分の1を孫氏自身が拠出する。すでにアマゾンやアップル、フェイスブックといったアメリカのIT企業など30銘柄を買ったという。「投資会社としての資産の多様化の意味もある」(孫氏)。

「マネーゲームのために会社を作ったわけじゃない」。会見の終盤、孫氏はそう語った。投資を通して「情報革命」を推進する戦略は変わらないというが、本来の狙いに立ち返るのであれば、投資の担い手の多い上場株ではなく、次のユニコーンを生み出すべくベンチャー企業への投資を今こそ加速すべきだろう。

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