香港政府はなぜ市民との対話を拒んでいるのか 入境拒否された日本の市議会議員が語る危機感

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11日に逮捕され車に乗せられた周庭(アグネス・チョウ)氏(写真:時事)

――現在、香港から台湾へ移住する人たちが増えています。

2018年当時から見ても、香港政府自身が香港市民を抑圧し、それによる反発を拡大させているように思えます。香港政府に市民と対話するという姿勢がまったく見えません。対話のチャネルを作ろうとさえしていないようです。それは、行政長官や立法会が中国の意向だけを聞くようになったのか、あるいは香港らしさを守るため、一国二制度を守るために何か考えがあってのことなのか。

2014年の台湾の「ひまわり学生運動」の時は、立法院(国会)議場を占拠するという乱暴な行動を台湾の学生たちがとりました。それでも台湾の国民からは彼らへの共感や支持が広がりました。それは当時の台湾の政府による政策や施策に対し「どこかおかしい」と考える人が多かったためです。また、政府側からも学生への同情や支持を示す人が少なくなく、そのような状況が結果として話し合いによる解決につながったのではないでしょうか。

しかし、香港では市民・政府双方からまったくそうした共感や支持が見えないのが不思議です。それほど対立の溝が深まっているのか、と。そのような中で絶望し、香港から台湾へ移住する人が増えたとしても不思議ではないと思います。

香港で邦人も巻き込まれる可能性がある

――「香港国家安全維持法」が施行され、逮捕者もさっそく出ています。この法が今後、香港の民主化運動にどのような影響を与えそうでしょうか。

香港や中国当局の動きを見ると、「外国人が香港をたぶらかしている。このままでは香港を分離させてしまう」という思い込みがエスカレートしていったように見えます。その兆しは2015年の「銅羅湾書店事件」にもありました。香港で中国共産党に批判的な本を出版・販売していた書店の店長などが香港で拘束され、中国大陸に勾引された事件でした。

当局が法を無視したこのような行動には「中国に刃向かう者に対しては問答無用に処罰する」といった香港・中国当局の考えが透けて見えます。これはとても危険で、邦人も巻き込まれる可能性がさらに高まったといえます。

香港政府は市民と対話をしようとしていないことは明らかです。力ずくで、とにかく抑えようとしており逆効果です。黎智英氏が逮捕された直後から、彼が創業したメディアの株価が上がる動きもありました。これは香港市民の屈しない強い意志の表れだと考えます。

香港政府が自らの政策について、市民に説明、あるいは説得する努力が足りない。そのようなまま、あれもだめ、これもだめといった姿勢では、香港市民も納得できないのではないでしょうか。そんな不満が爆発しないまま終わるとは思えません。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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