香港政府はなぜ市民との対話を拒んでいるのか 入境拒否された日本の市議会議員が語る危機感
――その後も、入境拒否の理由は当局から何も説明されていないわけですね。
いっさいありません。邦人保護の観点からも、私は2018年10月に香港行政長官事務所宛てに質問状を送りました。これは、入境拒否の理由、香港政府が否定しているブラックリストがあるのかどうか、そして今後の香港入境と身辺の保障、さらに渡航費用の返還を求めた内容にしました。しかし、事務所から「受領した」という返事は来ましたが、それ以降、何の説明も連絡もありません。
――当時の香港の政治状況と、2019年以降、激しい抗議デモが相次いで発生した状況など、一連の香港情勢をどう見ていますか。
自分の入境拒否を現段階で振り返ると、2018年までは香港市民が政府の態度や行動にかなりの不満をため込んでいたのではないかと思います。そんな不満に香港政府は気づいていなかったのかどうか。そして2019年に激しいデモが起きました。
民主派サイドの新聞「立場新聞」(Stand News)は2018年を象徴する漢字一文字を発表しているのですが、それは「禁」でした。そして翌2019年にある香港の団体が「抗」をその年を象徴する漢字として発表しました。香港政府の逃犯条例制定をめぐる一連の姿勢や考え方に、香港市民は我慢できなかったのでしょう。それでなければ、2019年に若者たちがあれほど覚悟して大規模な反政府運動を起こすことはなかったのではないでしょうか。
香港の法治が崩れ始めている
――和田さんは台湾の国立中山大学(高雄市)への留学経験があり、台湾政治の動向もよくご存じです。「台湾に近い」と香港や中国当局に見られて警戒されていた、ということはありませんか。
私の経歴から「台湾に近い」と見られていることはわからないでもありません。実際に、アメリカ国務省が発表する香港に関する報告書(2019 Hong Kong Policy Act Report)に、私の入境拒否の事実が掲載されて驚きました。そこには「北京から好ましくない人物と判断され入境を拒否された事例」として、「反中右翼で台湾独立を支持したと親北京メディアに評された日本の政治家・和田健一郎の入境拒否」と記載されています。
とはいえ、現地メディアの捏造記事によって私の入境を拒否するのは、法治を謳う香港ではあるまじき行為でしょう。私を狙い撃ちにしていたのか、という疑問は残ります。また別の香港メディアが香港の日本総領事館に入境拒否のことを取材した際、総領事館側は「ノーコメント」だったと報道されました。これには、香港の民主派の人間から「日本は自国民を守らないか」と驚かれたこともありました。
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