キヤノン、初の赤字が迫る御手洗氏「次の一手」 屋台骨支えるデジカメとオフィスが不振に

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キヤノンを支えてきた2事業の縮小に備え、2010年ごろから強化してきたのが、医療機器やネットワークカメラ分野だ。

2015年には監視カメラ事業を行うスウェーデンのアクシスコミュニケーションズを約3300億円で、2016年には東芝メディカルシステムズ(現キヤノンメディカルシステムズ)を6600億円でそれぞれ買収した。

2019年末に東洋経済のインタビューに応じたキヤノンの御手洗冨士夫会長(当時)は「手はしっかり打っている。(持続的な成長について)安心してほしい」と語っていた。

成長戦略の見直しは不可避に

だが、新型コロナの影響でこれまでの戦略の見直しは避けられない。2020年4~6月期の医療機器は唯一増益となったものの、その要因は主に経費削減で、医療機関への営業活動や機器の設置が思うように進まず、売上高は前年同期比3%の減収となった。

ネットワークカメラも各国でロックダウンが起きたことで新たなカメラの設置が遅延し、減収となった。

キヤノンは高収益企業への回帰を目指し、新規事業の売上高構成比を2020年に30%程度へ引き上げるとしていた。しかし、最新の公表数値がわかる2018年の新規事業の売上構成比は23%にとどまる。

キヤノンは株式市場で高配当を続ける株主還元の優良銘柄として知られてきた。御手洗氏は、キヤノンUSA社長時代にアメリカの名門企業の動きを意識し、在庫を極力持たずに資金を有効活用するキャッシュフロー経営と非減配を重視するようになった。キヤノン関係者によると、キヤノンの株主には長期保有を目的とする年金基金や個人投資家が多く、御手洗氏もそのような投資家を意識していたという。

3たび社長に就いた御手洗冨士夫会長兼CEO。キヤノンの成長を再び加速させられるのか(撮影:尾形文繁)

7月28日の投資家・アナリスト向け説明会では「配当方針が変わったのか」という質問が飛び出したほか、一部投資家には「配当を重視する御手洗氏が、周囲の減配圧力に抗しきれなくなったのでは」とみる向きもある。

ただ、複合機事業などの落ち込みが想定を超え、新規事業も遅々として成長していないことから、実際には「会社存続への危機意識を共有するために、御手洗氏主導で減配を決めた」(キヤノン関係者)ようだ。田中稔三副社長CFOも7月28日、「キャッシュの使い道として最も優先度が高いのは成長投資であり、その次が株主還元という原則で長年やってきた。コロナがどれだけ事業に影響を及ぼすかはなかなか読めないが、大事を取って資金繰りを優先した」と述べた。

今回、長年のポリシーを一時撤回するまでして確保したキャッシュで新規事業の成長を加速させられるのか。5月から社長を3たび兼務する御手洗会長兼CEOの手腕に注目が集まる。

大竹 麗子 東洋経済 記者

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おおたけ・れいこ

1995年東京都生まれ。大学院では大学自治を中心に思想史、教育史を専攻。趣味は、スポーツ応援と高校野球、近代文学など。

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