商船三井、重油流出事故で問われるリスク管理 「24時間365日」の支援体制をうたっていたが…

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同社は安全運航支援センターによる「24時間365日の支援体制」をうたい、「(悪天候やテロなどのリスクを)リアルタイムで把握し、本船、船舶管理会社、海技グループ、運航担当者と連絡を取り合い、『船長を孤独にしない』体制を整えています」とホームページで明記している。

そのうえで同センターには「船長経験者を含む2名が常駐し、海外メディアの情報や気象情報など、船の航行に関するあらゆる情報を収集し、タイムリーに適切な情報発信を行うことにより、重大事故の発生を未然に防止するべく全力で取り組んでいます」と記述している。今回の事故で同センターが事故を起こした船舶とどのようなやり取りをしたのか、どこに問題や限界があったかについても検証が必要になりそうだ。

社員を現地に派遣

賠償の見通しも現時点では定かではない。船主責任保険(P&I保険)の加入義務は、船の所有者(船主)である長鋪汽船にある。同社は乗組員を手配したうえで、商船三井に船を貸し出している。いわゆる用船契約という仕組みだ。

8月9日の記者会見で長鋪汽船の長鋪慶明社長は「本件油濁事故については船主である当社が保険に加入している」と述べた。そのうえで、保険でカバーできない可能性については、「どの程度の損害になるか把握できないので答えられない」(長鋪社長)とした。

一方、商船三井の小野晃彦副社長は「当社は(保険加入の義務のない)用船社の立場だが、社会への甚大な影響に鑑みて誠実に対応してまいりたい」と述べた。商船三井と長鋪汽船は8月11日、情報収集や油漏拡大防止を目的とした計8人(商船三井6人、長鋪汽船2人)の社員を現地に向けて派遣した。

海運業界では近年、海運会社が自社で船を持たずに借りて運航する「用船」という仕組みが一般化している。ただ、貸主である船主の中には財務基盤が脆弱であったり、大規模事故への備えが十分でない企業もある。

今回の事故でも、被害の程度や対応の仕方によっては、船の運航契約を結んでいた商船三井や日本政府に国際社会から被害救済を求めるプレッシャーが強まることも予想される。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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