前回のコラムでは、商船三井の供託金支払いの件から、中国ビジネスの難しさを改めて考えてきた。このコラムでは「どうすれば中国との交渉ごとに負けないか」など、中国ビジネスに関連することを機会あるごとに書いてきたが、おかげさまで、多くの方から反響があり、この夏には40年近い日中ビジネスのノウハウも満載した「中国との交渉術」の新刊書を出す予定だ。最近では中国で工場経営をしている企業経営者からも、講演会を依頼される機会が増えてきた。
人件費や諸費用の高騰から、中国から逃げ出したい企業も増加しているようだ。確かにこれだけ日中関係がギクシャクしてくるとそれも仕方ない気もする。しかし、中国との取引関係は感情論で判断せず、長期的視点で冷静に判断してもらいたいと思っている。今回は、私が長年のビジネスの経験で得た、中国の「揺さぶり」に、屈しない交渉のツボを書いてみたい。
中国人は、常に厳しい競争にさらされている
まず、中国の悠久の歴史を多少とも知っておく必要がある。中国の歴史は、主流である漢人(漢民族)から見れば、他民族からの侵略の歴史でもある。それゆえに、同国の少数民族問題は、われわれ日本人が理解できないほど複雑だ。
万里の長城が、中原から北方の騎馬遊牧狩猟民族から守るために築かれたことは誰でも知っている。北方民族とは、匈奴、鮮卑、突厥、契丹、女真、モンゴル、タタールなどだ。それゆえ、漢人のDNAには侵略者への恐怖心があり、防衛問題になると必要以上に過剰反応をしてしまうのかもしれない。
さらに、中国人社会は人口が多く、日本など比べものにならないほどの競争社会だ。それゆえ、「家族以外はあまり信用しない」のが普通であり、家族以外なら場合によっては蹴落としてもよいという「裏切りの社会」の中で暮らしてこざるをえなかった。日本人は四方を海で囲まれており、仲間を裏切ったら仲間外れ(村八分)にされて生きていけない。だが、中国社会では、「生き死に」がかかっているので、ある程度までは許されるというわけだ。
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