実際に蓋を開けると、議決権行使率は73%で、車谷氏の賛成率は約58%、今井氏の賛成率は約43%だった。東芝にとっては目標ラインをどちらもクリアしており、数字上は薄氷の勝利に見えても、「東芝にとっては想定以上に良い結果では」(総会関係者)という声も聞こえる。
東芝の想定よりも良い結果となったのは、「一部の大株主が議決権を行使しなかったのでは」(ファンド関係者)とみられている。ただ、臨時報告書などをみると、エフィッシモは車谷氏について賛成でも反対でもなく、棄権している可能性が高い。棄権でも出席扱いとなって分母が大きくなるため、車谷氏の賛成比率を下げて実質的に反対票と同じ効果を持つ。
東芝からは今後に楽観論も
さらに、東芝関係者からは「(車谷氏の賛成比率は)今回の総会が底だろう。来年以降の総会はこんなにひどくはならない」という楽観論も聞こえてくる。
楽観論が流れる理由の1つは、エフィッシモが総会の前に東芝株の一部を売り、保有率を15.36%から9.91%に下げたと発表したことだ。東芝は、独立性の観点から社外取締役が属する企業の東芝株保有率を10%未満にすることを規定しており、創立メンバーである今井氏を取締役候補にしていたエフィッシモを「利益相反の可能性がある」(太田順司・東芝監査委員会委員長)と批判していた。エフィッシモがこれに応じた形で、東芝にとっては反対票が減ることにつながる。
第2に、東芝は年内にも東証1部復帰への道が見えているからだ。東芝の株価は、新型コロナショックが本格化する前の2019年末から2020年初めまでは4000円近くで推移しており、2部に降格した2017年当時と比べて1000円ほど高い。1部復帰でTOPIXなどの株価指数に採用されれば、新たな投資資金を呼び込めるため、市場関係者からは「株価6000円も視野に入ってくる」との声も上がる。
株価が上昇すればアクティビストも東芝株を売却しやすくなり、その代わりに長期的な視野を持つ機関投資家が安定株主となってくれるとの期待が東芝にはある。
3つ目が株主還元強化の当てがあることだ。東芝は6月下旬、約40%を保有する半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)株を売却し、その手取り金の過半を株主に還元すると発表した。キオクシアは年内にも東証1部に上場が予定されており、「時価総額は数兆円になる」(市場関係者)とされている。キオクシアの上場と保有株の売却を原資に、相当額の株主還元がなされると予想されており、株主の不満を抑えられるとみている。
もっとも、株価を上げるにはこうした小手先の手段よりも、業績そのものを上げることが王道だ。三井住友銀行出身の車谷氏にとって再建計画「東芝ネクストプラン」の1年目にあたる2020年3月期は、パソコンなど不採算案件の売却やリストラ効果を大きく出すことに成功し、営業利益は前期比3・7倍の1304億円と堅調だった。ただ今後は将来の成長をどう描くかが問われている。
エフィッシモは今回、「残念ながら提案が承認されなかった。しかし、東芝の一段の成長と企業価値向上には、コンプライアンスおよびコーポレートガバナンスの徹底的な改善が必要だ。(中略)大株主の立場から東芝を支援し、建設的なエンゲージメントを行っていく」とコメント。東芝株については短期ではなく中長期で保有していく姿勢を見せている。
東芝は8月12日に2020年4~6月期の決算発表を予定している。新型コロナ影響をどれだけ跳ね返せるのか。東芝とモノ言う株主の戦いはまだまだ続きそうだ。
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