ユーロは再び第2の基軸通貨と期待されるのか 欧州復興基金で「安全資産」としての価値が増す

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現在に至るまで、ユーロは安全資産(≒国債)の市場規模という点に関してドルに劣後している。市場規模を大まかにつかむ意味で2019年の政府債務残高を見てみると、アメリカは約22.7兆ドルであるのに対し、ユーロ圏3大国(ドイツ・フランス・イタリア)では約7.6兆ドル(≒6.8兆ユーロ、2019年、1ユーロ=1.12ドル換算)となっており、アメリカが3倍程度の規模を誇っている。

安全資産としてユーロ建て資産の価値を保蔵しようにも受け皿としての市場規模が比較にならないほどドルのほうが大きいという現実がある。ちなみに、日本は約12.1兆ドルとユーロ圏3大国の合計よりも大きいが、周知の通り、この9割が国内で消化されており価値保蔵機能の提供という点ではより小さな規模だ。また、世界の為替取引においても円のシェアは約8%とユーロのシェア約16%の半分であることも勘案する必要がある。

安全資産としての規模拡大には注目してよい

以上を踏まえたうえで、最高格付けを得られるであろうEU債が継続的に発行されるようになれば、ユーロに欠けていた価値保蔵機能が強化されることになる。これは中長期的な目線に立つリザーブプレーヤーにとっては立派なユーロ買い要因になるのではないか。もちろん、復興基金の誇る7500億ユーロすべてがEU債で調達されたところで米債市場の懐の深さにはとうていかなわない。

さらに、復興基金は文字どおり復興を目的とする一時的なスキームであるため、EU債が継続的に発行される未来が来るのかどうかも不明だ。かつて一時的なスキームとして設置されたEFSF(欧州金融安定ファシリティ)がESM(欧州安定メカニズム)として恒久化されるプロセスも一筋縄ではいかなかった。債務共有化を実現する復興基金が名称を変えて恒久化するためのハードルは、高いはずである。

だが、「第2の基軸通貨」として準備通貨面で大きなひろがりを見せることができなかった過去20年の経緯を踏まえれば、今回の復興基金誕生が新たなユーロ建て安全資産の市場創造につながり、ユーロの基軸通貨性を高める、小さいけれども歴史的な一歩になった可能性はある。最近のユーロ相場の騰勢にはいろいろな解釈がありうるが、復興基金と絡めて正当化するならば、このような巨視的な視点から解釈するアプローチも一興ではないかと思われる。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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