ユーロは再び第2の基軸通貨と期待されるのか 欧州復興基金で「安全資産」としての価値が増す

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とはいえ、ドルを凌ぐ存在になれないからといって、ユーロの帯びる基軸通貨性が全否定されるわけではない。簡単にいえば、「もっと為替市場で使われる存在になる余地」はある。この点、ユーロ発足以来、断続的に注目されてきた「ユーロは第2の基軸通貨になれるのか」という論点を点検しつつ、復興基金誕生と関連づけて現状把握に努めてみたいと思う。

まずは「基軸」となる通貨の条件を改めて提示しておくことが必要だろう。細かく挙げればキリがないが、大まかに、第1に国際的な貿易・資本取引における決済手段であること、第2にドル以外の通貨間の価値尺度の基準となること、第3に各国政府の外貨準備通貨として保有されることの3つが必要条件と考えられる。

まず第1の条件。人口で見ればユーロ圏は約3.4億人とアメリカの約3.3億人をやや上回るものの、名目GDP(国内総生産)で見れば約13.3兆ドル(2019年)であり、アメリカの約21.4兆ドルには距離がある。ユーロ圏19カ国からEU27カ国までベースを広げても約15.6兆ドルと及ばない(離脱したイギリスの約2.8兆ドルを加えても追いつかない)。しかし、仮にユーロが加盟国を増やし続け、経済規模で米国に追いつくことがあったとしても、第1の国際的な貿易・資本取引における決済手段として、ドルを超える存在になることは難しいだろう。

中国や日本を含むアジア地域、あるいは中南米地域が決済通貨をドルからユーロに切り替えることがあるだろうか。決済通貨の選択は「規模の経済」が働く世界であり、いったん「現在の基軸通貨」という既成事実ができると、その慣性(inertia)が強みとして作用するものだ。アメリカやドルの地位を揺るがすようなショックでもない限り、崩れることはないと考えるのが自然だろう。

「ドルの敵失」は期待できるか?

要するに、第1の観点からは「アメリカ(ドル)の敵失」を待つしかないわけだが、最近の様子を見ているとつけ入る隙がないわけではない。周知のように、米国の財政赤字は今年、経験のない領域に突入しており、GDP比で30%程度の規模が視野に入っている。7月以降のドル安について、そうした「ドルの過剰感」に原因を求める論調が高まり、踏み込んでいえば「ドルの信認」がテーマ視されている。これは立派な敵失といえよう。

また、コロナショック以前から中央銀行デジタル通貨(CBDC)を突破口としてドル一極集中の現状を打破しようというムードはあった。その代表格がデジタル人民元を通じて自身の通貨圏拡大に意欲的な中国の動きだが、ユーロ圏もデジタルユーロへの関心を隠していない。来たるべきCBDCの時代において技術的な規範(先行者利益)を獲得したいという思いに加えて、ドルの基軸通貨性にチャレンジしたいという思いをユーロ圏も抱いているかもしれない。

次に、第2の「ドル以外の通貨の価値尺度・基準となること」という点はどうか。これは相当難しそうだ。例えば、円高・円安の評価基準を対ユーロで判断したり、原油や金などの商品価格がユーロ建てで表示され取引されることが常識になる時代が来るとは思えない。すでに、多くの経済主体がドルを価値尺度として使い、多様な相場観もこれに基づいて形成されている。ドル通貨圏を変えるのは難しく、また、変える理由もない。

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