アメリカ帝国の衰亡 ポール・スタロビン著/松本薫訳 ~国民国家から都市国家へ 「アメリカ後」を考えさせる

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アメリカ帝国の衰亡 ポール・スタロビン著/松本薫訳 ~国民国家から都市国家へ 「アメリカ後」を考えさせる

評者 中岡望 ジャーナリスト

本書はアメリカのフォード政権で国務長官を務めた政界の大物ジェームズ・シュレジンジャーの「アメリカは『一種の精神的な病』を患っている」という言葉を引用する。テロに過剰に反応するアメリカが「権利章典」で宣言したアメリカ民主主義の根本を自ら足げにしている姿は、民主主義の高邁な理念を掲げたアメリカとは異質な存在のように見える。

かつてポール・ケネディは『大国の興亡』の中で能力を超えた“アウトリーチ”が大国の衰退を招くと指摘したが、現在のアフガン戦争で悪戦苦闘するアメリカは、まさにそうした状況にある。本書も「アメリカの力はあらゆる面で衰え始めている」と指摘する。

アメリカの衰退を説く類書は数多くある。本書も『アメリカ帝国の衰亡』というタイトルから、そうした一冊という印象を与えるかもしれない。だが、原題は『アメリカ後』で、アメリカの衰亡の分析は序論に過ぎない。むしろ本書の焦点はアメリカの覇権が終わった後、すなわち「アメリカ後」、一体どのような世界が登場するのかに焦点を当てている。その意味で類書のアメリカ衰退論とは違う。

アメリカ後に世界の覇権を握る可能性を持っている国として中国とインドが挙げられている。中国は遠からず「経済力」でも「軍事力」でもアメリカを追い抜くだろう。しかし、筆者はそれだけでは中国は覇権を確立できないと指摘する。本当の覇権は「経済力」「軍事力」に加え、「他国を引きつける『磁力』」が必要である。それは「理念」や「理想」であり、「国際的な公共財」の提供である。アメリカの覇権はアメリカ民主主義という理念があって初めて可能であった。中国がそうした「磁場」を持ちうるかどうか疑問である。

本書は力を込めて、ネットワークで結ばれた「都市国家」が、伝統的な「国民国家」に代わって世界の中心になると説く。世界経済の中心は「国家の深層部から将来有望な世界都市へ移行しつつある」と分析している。そして「都市国家には故国を捨てたコスモポリタンや創造性あふれる芸術家が世界中から集まってくる」場所であり、国民国家の枠を超え、場合によっては独自の外交政策や安全保障を行う可能性を秘めている。将来の都市国家をイメージさせる都市として人工都市ドバイや上海などを挙げている。

本書は、アメリカ後の世界は覇権国家なきカオスの世界か、中国の覇権国家の誕生か、都市国家の登場か、さまざまな可能性を論じている。アメリカ後の世界を考える知的な枠組みを与えてくれる刺激的な本である。

Paul Starobin
ジャーナリスト。米ニューヨーク・タイムズ、ワシントンポスト、ロサンゼルス・タイムズなどに寄稿。『アトランティック・マンスリー』編集者、『ナショナル・ジャーナル』記者などのほか、1999~2003年に『ビジネスウィーク』モスクワ支局長を務める。

新潮社 2520円 477ページ

  

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