コロナ禍で「都市」が持つ価値が一変した背景 都市社会学の専門家が考える「withコロナ」
「今回の新型コロナウイルス感染拡大が起きるまで、私たちは『感染症』という、都市における最大のリスクを忘れてしまっていたのです」
筑波大学准教授で、都市社会学や地域社会学を専門とする五十嵐泰正(やすまさ)さんは、こう語る。
東京都の「新型コロナウイルス対策サイト」によれば、これまでの東京都内の新型コロナウイルス陽性者数の数は計12,228人と、全国でも圧倒的に多い(2020年7月30日時点)。
「都市」が持つ価値が一転してリスクに
五十嵐さんによれば、そもそも都市の定義は「異質性の高い人が高度に集積した場所のこと」だという。都市には、地方の農村部などにはまずいないような職業の人も多く暮らし、その中で新たな文化も生まれる。さまざまな国籍の人やセクシャルマイノリティなどもいて多様性があり、人々が流動的に出入りしている。
「不特定多数の人々が集まる」ことで、犯罪や公害、交通渋滞などの問題も起きていた。しかし、テクノロジーの進化や大気汚染の改善などによってひとつずつ問題が解決していったことで、都市で暮らすリスクはほとんど意識されないようになっていった。
「1980〜90年代半ばくらいまでのいわゆるバブルの時代は、都市ではなく郊外で暮らすことがトレンドになっていました。いまでは多くの人が暮らす中央区や千代田区なども、当時は人口が減少局面にありました。
今回のコロナをきっかけにリモートワークを導入した企業が増えましたが、実は当時から、郊外の自宅でも都市部のオフィスで働くのと同じように仕事ができる環境が整えば、都市部に人が集まる必要はなくなり、世界はフラット化すると考えられていたんです」と、五十嵐さんは話す。
しかし、その予想は大きく外れた。IT化が進み、自宅でもオフィスと同じように働ける環境が整いつつあった一方で、郊外から都市への移住がはじまるようになっていったのだ。
その理由には、郊外化が進んでいたアメリカでも都市のメリットが見直されるようになってきたことや、日本でも夫婦がフルタイムで働くことが一般的になっていくにつれ郊外での暮らしが成り立たなくなったことなどがあるという。