学童保育「全国で雇い止め」が多発する根本原因 現場からパージされるベテラン指導員の悲鳴
保護者は憤慨する。
「1年間で市内の29人の指導員が辞め、指導員が入れ代わり立ち代わりという状態が続いていました。低い賃金なうえに、適正規模を超えた児童を保育するため大きな負担になっていたからです。子どもたちの安全を守るために、適正な人数規模での保育、待遇改善を訴える請願運動をしてきましたが、雇い止めされた指導員はその中心的な存在でした。
子どもたちからも好かれ、保護者からの信頼も厚い人です。投書の内容は侮辱的で名誉毀損にもあたり、事実と異なるので私もふくめ保護者がそれぞれ抗議しました。
調査は当初、同僚指導員への聞き取りをしていたようですが、家庭訪問を始め、子どもに対しても先生の実名を出して根掘り葉掘り質問しています。こんな調査方法があっていいのでしょうか。雇い止めされて当然の人物だと吹聴しているようなものですし、子どもへの影響をまったく考えていない」
「子どものための視点」忘れてはいないか
働くうえで異動はつきものだし、怪しい投書が出たとなれば調査は必要だ。しかし、学童保育は福祉事業である。子どものための最善は何かという視点を忘れてはいないか。
4市で起きたことの底流には、学童保育や指導員への軽視がある。民間企業であれば、コストや効率を重視する。安全に過ごさせるために、危険や面倒になりそうなことの芽を摘もうとする。運動場の遊具を使えば怪我をするかも知れないから使わせない。手作りおやつやごはん作りは食中毒の危険があるから作らない。遊び道具をめぐってケンカが起きれば、その遊びは禁止……。
経験豊かな指導員ならば、遊びや生活のなかで危険やトラブルを子ども自身が認識できるようにする。そしてどう回避し、乗り越えていけばよいかを子どもと一緒に考え、実行していく。子どもが生きる力を身につけるチャンスだからだ。
しかし、そこに向き合おうとすれば、時間もかかる。また、個々の子どもを理解し、子どもとの信頼関係を築くためには継続的に関わることが必要で、子どもの発達段階などの知識や経験も欠かせない。
安全第一を理由に大人側の論理で管理をしようとする民間企業と、指導員たちの求める学童像の間には大きな隔たりがある。
守口学童雇止め事件弁護団の原野早知子弁護士は、「原告は長年の経験があり、責任者、副責任者として勤務してきた。被告は答弁書にて、『専門性は雇用契約の更新とは関係がない』、『責任者・副責任者は、新人でもパートでもアルバイトでも行える業務』などとして、指導員の経験や専門性を軽視している」と話す。
コロナ禍によって「学童は社会資源」という認識は広がったが、学童保育とはどういう場なのかという共通認識は社会には定着していない。民間企業だけでなく行政に対しても、学童保育の本質を問う裁判となる。
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