高橋泰教授が新型コロナをめぐる疑問に答える 暴露と感染の広がり方、PCR検査の問題を解説

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――前回、すでに日本人の30%が暴露しているとしたことについて、この数字はどうやって出したのか、という質問がありました。

シミュレーションは暴露率をいくつか設定して現実の死者数に当てはまりのよい数字を見つけた。そこからさらに全員が暴露した場合の重症者数と死亡者数の予測を行った。

例えば、暴露率を全国民1億2600万人の約1/3、4200万人が暴露していると仮定し、この時の死亡者数が1000人とすると、全国民・残り8400万人が暴露したら、あと2000人が死亡する。国民の1/30である420万人しか暴露していないと仮定すると、あと1億2180万人が全員暴露したら、29倍(12180÷420)の2万9000人が死亡することとなる。このような考え方をもとに、5月10日時点を起点として、6月7日までの重症者数、死亡者数の動向に照らし合わせると、現状の7月25日時点の暴露比率は30~40%に想定するのが、実態に合っていると判断している。

前回のインタビューのあと、社会保険研究所のホームページでシミュレーションの内容も詳細に説明した論考を公開しているので、関心のある方はご参照いただきたい。

クルーズ船、武漢は暴露を濃厚にする閉鎖環境

――モデルでは日本人のうち約3割が新型コロナに暴露しており、暴露した人のうちの98%は自然免疫で治り、発症は2%、重症化する人は暴露した人の0.01%にも満たない数字です。これは日本全体の平均です。一方、これとは別枠のダイヤモンド・プリンセスは乗客乗員計3711名、うち陽性が712名で7月25日までに死者が13人出ています。また中国全体では死亡率は低いけれど、武漢では他の10倍を超える高さでした。

ダイヤモンド・プリンセスについても、5月10日時点で死亡者予測のシミュレーションを行ってみた。年齢層別発症者数から算出した死亡者予測は現実と一致しており、ダイヤモンド・プリンセスの死亡者数の多さは、船内での発症率が平均よりも高かったことが主因とみられる。

これは前述の3要素の中では1つめの環境の問題が大きいと思われる。船内の食事はビュッフェ形式であり、そこで多くの人が濃厚な暴露を受けたことが予測される。新型コロナの最初の流行地であった武漢も、流行開始時は春節に当たり、無防備なままパーティーが各地で開催された。中国の食習慣である直箸(じかばし)で、ウイルスを大量に排出する無症候キャリアから、濃厚暴露が各地で起こり、感染が急速に広がったことが予測される。

また、ダイヤモンド・プリンセスはその後、重症者を含め多くの人がその場に閉じ込められた閉鎖空間となり、その結果、ウイルスの密度の高い状態となり、大量のウイルスの保持者がお互いにうつしあうことになった。武漢も野戦病院形式で検査や治療を同じ部屋で行い、結果的にウイルスの大量暴露や繰り返しの暴露が起きやすい環境が実現したと推測できる。

そのような環境では、最初は自然免疫で治っても暴露の状態が続いてしまう。AさんがBさんにうつし、Cさんにもうつすが、またBさんがAさんにうつし返すといった具合で、感染のチェーンも途切れなくなってしまうし、何度もかかると体力を消耗し、自然免疫の力も弱くなってしまう。院内感染を起こしたような施設も同じ状態だ。つまり、閉じられた空間にいたから何度も暴露する。

逆に言えば、そうした濃厚暴露の環境を防ぐことは有効だ。 開かれた空間で普通に活動していれば、ウイルスに1日に何度も暴露するということは非常に稀(まれ)だ。

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