投資で外貨を持つことがほとんど無意味な理由 多くの人が誤解している「シンプルな事実」

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それに、日本が将来大変なインフレになって通貨の価値が下がると言いますが、仮に、例えば、日本が現在のベネズエラのようになったとしても、たっぷりとドルを持って海外に移住するなどということが簡単にできるでしょうか。日本経済が破滅的になるのであれば、恐らく海外に行くことすらできなくなるかもしれません。したがって、単に通貨としてドルやユーロを持っているだけでは、ほとんど意味はないのです。

だからと言って、外国資産に投資したり保有したりすることには意味がないわけではありません。とくに株式に関して言えば、国内株式のみに投資をするほうがむしろリスクであって、広くグローバルに分散投資をすることが必要だと思います。例えば日本の株式だけ見ていると1990年代以降、全体としてはなおバブル崩壊の後遺症が残っていますが、同じ期間のアメリカや中国の株式市場はその間、何倍にもなっています。

また、海外には日本にはないようなタイプの成長企業がたくさんあります。とくにIT分野などでは「プラットフォーム」を構築している企業や電子商取引などではわが国に比べてはるかに進んでおり、かつ業績が好調である魅力的な企業もあるのです。こういうものに投資しない手はありません。

一方で海外の株式投資については情報を集めたり投資判断をしたりするのが難しいのもまた事実です。したがって、自分で銘柄を選ぶのが面倒であれば、海外のETF(上場投資信託)などを購入するという方法もあります。

また今後世界のどの地域や国が発展するのかを正確に予測するのは困難ですから、世界中の市場の時価総額やGDPなどの経済規模に合わせた資産配分でインデックス運用を行う投資信託でもいいでしょう。今の時代なら1万円や千円といった少額からでも、そういうグローバルに分散投資できる投資信託を購入することができるからです。

高金利の外国債券は高インフレと「隣り合わせ」

ただ、外国資産であれば何でもいいのかというと決してそうではありません。保有していることで、それ自体が毎年確実に新たなお金を生み出す株式や不動産であれば、投資する対象先を間違わない限り、リターンはある程度得られるでしょうし、それらに投資する投資信託も同様です。

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しかしながら、「高金利の外国債券」などはあまり意味がないと思います。なぜなら金利が高いということはその国の物価が上昇傾向にあるということでもあり、もし長期にわたってインフレ率が高いようなら、その通貨の購買力は低下します。為替レートは長期的には2国間の通貨の購買力によって決まると言われています。

したがって、長い期間で見れば金利の差というものは通貨の変動によって調整されることが多く、見かけ上高金利だと思っていても結局は為替差損で日本の金利とほとんど変わらないか、場合によってはマイナスになる可能性もあるからです。事実、今までもこうした海外高金利債券に投資はしたものの、大幅な通貨安で調整され、結局は円換算では大きなマイナスになってしまった例はたくさんあります。

このように、外貨を持つことと外国資産を持つことを混同しないようにすることが大切です。為替の変動があっても、それを上回る利益成長が見込めるような外国資産であれば、投資をする価値があるといっていいでしょう。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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