セシルマクビー撤退示す「今後危ないブランド」 コロナは中庸なアパレルを一掃しかねない

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セシルマクビーが店舗事業から撤退せざるをえなかった理由はどこにあるのだろうか? 第一に挙げられるのが、ワンピースにヒールパンプスという女性らしい服装がダウントレンドにあることだ。渋谷や原宿を歩いても、10数年前に一斉を風靡したエビちゃん的なフェミニン全開の女子はほとんど見かけない。

ここ数年、モードの世界では男女の境のない「ジェンダーレス」なファッションがトレンドになっているが、日本の若い世代では女子が男子に寄せている印象が強い。ゆったりしたシルエットのジーンズやワークパンツにTシャツをインして足元はスニーカー――。こんなスタイルが今時のF1層の強めの女子(従来のギャルに相当する)の定番的スタイルだ。セシルマクビーの今の世界観と乖離があるのは言うまでもない。

中庸なアパレルの「末路」

若者のファッションへの熱が薄れたのと、若者人口の減少も大きく影響している。一部で熱狂的なファッション好きは健在なものの、多くの若者はかつての日本の若者のようにファッションに執着していない。

かつての渋カジ、裏原、ギャル、エビちゃんOLのように、ひとつのトレンドに世代全体が左右されるような現象は完全に過去のものとなり、ファッション好きの嗜好も細分化されているのだ。

ギャル全盛期の1998年に18歳だった1980年の出生数は157万人、モテ系全盛期の2008年に18歳だった1990年の出生数は122万人で、現在18歳の2002年の出生数は119万人。1980年比で約38万人も減少している。ここ数年はインバウンド需要がその減少分をカバーしてきたわけだが、コロナ禍で改めて国内需要が縮小している問題が露呈したと言える。

2010年代に入ってから、アパレルは上か下かしか生き残れないと言われてきた。上とは欧米のトップメゾンや生地や縫製にこだわり抜いた上質なブランド、ほかにない圧倒的な個性があるブランドで、当然パイは少ないしライバルとの競争も熾烈を極める。

そして下のマーケットは、ほぼユニクロとジーユーの1人勝ちで、日本には対抗できるライバルは見当たらない。オンワードホールディングス、TSIホールディングス、三陽商会などの百貨店アパレルのブランドは「中」の象徴的な存在で、セシルマクビーなどのギャルブランドは「中と下」の中間に位置する存在だ。

中のマーケットは、限られた旬なブランドを除けば、上か下かのどちらかを目指すしかないわけだが、下は圧倒的な覇者がいて勝負にならないから、選択肢は規模を縮小して上のマーケットに挑むほかない。今回、ジャパンイマジネーションが選択した事業方針はまさにこれで、赤字のメインブランド(セシルマクビー)を切り捨てて、収益性が高くコアなファンがいる4ブランドで生き残りをかける、というわけだ。

「次に緊急事態宣言が出て店舗を閉めてしまったら、立ち行かなくなる取引先(ブランドが)が大量に出てくる」とは、前述の古着屋取材で同席した百貨店バイヤーの弁だ。今春夏の在庫を大量に抱えたブランドの多くは、そんなに遠くない未来に事業の整理や縮小を迫られることになるだろう。もう一度くり返す。セシルマクビーの店舗事業からの撤退は、中庸アパレルブランドの終わりの始まりなのである。

増田 海治郎 ファッションジャーナリスト

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ますだ かいじろう / Kaijiro Masuda

1972年埼玉県出身。神奈川大学卒業後、出版社、繊維業界紙などを経て、2013年にフリーランスのファッションジャーナリストとして独立。『GQ JAPAN』『MEN'S Precious』『LAST』『SWAG HOMMES』「毎日新聞」「FASHIONSNAP.COM」などに定期的に寄稿。年2回の海外メンズコレクション、東京コレクションの取材を欠かさず行っており、年間のファッションショーの取材本数は約250本。メンズとウィメンズの両方に精通しており、モード、クラシコ・イタリア、ストリート、アメカジ、古着までをカバーする守備範囲の広さは業界でも随一。仕事でもプライベートでも洋服に囲まれた毎日を送っている。著書に『『渋カジが、わたしを作った。』

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