カタツムリ、「操られた」末に迎える憐れな最期 臆病な生き物がなぜ鳥に見つかる行動をするか

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ロウコクロリディウムの作戦は秀逸である。

鳥の体内で産み落とされたロウコクロリディウムの卵は、糞(ふん)と一緒に鳥の体外に排出される。そして、その糞を食べたカタツムリの体内に侵入するのである。

とはいえ、これだけでは任務が完了したとは言えない。

カタツムリの体内に寄生したロウコクロリディウムは、次に、鳥の体内に移動しなければならないのだ。

そこで、カタツムリの行動を操り、日当たりのよい場所へと移動させる。そして、目の先端に移動して、鳥の大好物であるイモムシが動いているように自らが振る舞うのである。

目の中で動き回るロウコクロリディウムを追い払おうとしてか、カタツムリは盛んに角を揺り動かす。それがなおさらイモムシのような目を目立たせて、空腹の鳥を呼び寄せるのである。

カタツムリを鳥に食べさせて鳥の体内へ

そして、ロウコクロリディウムは、カタツムリを鳥に食べさせて、鳥の体内への侵入を成功させるのである。

もちろん、憐れなカタツムリの命と引き換えに、である。

恐ろしいのは、寄生虫が単にカタツムリに寄生して栄養分を得るだけでなく、カタツムリの行動までも支配してしまうことである。

もしかするとカタツムリは、自分が支配されているとは思っていないのかもしれない。なぜだか急に太陽の光が恋しくなって、なぜだか急に行動的になって、いても立ってもいられなくなってしまったのかもしれない。そして、自らの意志と信じて、葉の上へと移動していったのだ。行動を操られるということは、かくのごとく恐ろしい。

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このように寄生した生物が、寄生した相手の行動まで支配する例は珍しくない。

例えば、ハリガネムシに寄生されたカマキリは、水辺に近づき、浸水しようとする。これは、ハリガネムシが水の中に卵を産むために、カマキリにそうさせているのだ。

寄生虫だけではない。アリタケというキノコの仲間がアリの体内に入ると、アリタケは胞子(ほうし)を飛ばすのに適した場所までアリを移動させたのちに、存分に胞子を伸ばすのだ。その後、用のなくなったアリは、アリタケの餌食となる。アリタケの菌糸(きんし)が全身にまわり、養分を吸い取られて死んでゆくのである。

寄生というのは、恐ろしい。行動さえも、容易に操ってしまうのだ。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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