自販機オペレーター「残業代未払い」の残酷物語 休憩なしで帰宅は深夜、知られざる過重労働

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自販機台数があまり減らない中で、自販機オペレーターで働く従業員にとって追い打ちとなったのが人手不足だ。あまり知られていないが、自販機オペレーターの職場環境は「きつい、汚い、危険」の3Kがそろう。そのため人手が集まりにくい。

自販機の売れ行きがよい都内の主要駅などでは、商品満載時に重量200キロほどにもなるカートを、乗降客が行き来するホームで移動させなければならない。重い荷物を持ち上げるため、腰を痛める人も少なくない。

交通量の多い道路脇などに設置された自販機の作業では、安全面に気を配る必要がある。空容器の回収では「自販機横の容器回収ボックスを一般ごみのゴミ箱と勘違いしている人が多く、弁当容器などが捨てられている。容器の回収時にゴキブリが出てくることもあってつらい」(ある自販機オペレーターの従業員)。

実際の時給は最低賃金以下に

3K職場で人手が集まりにくい結果、「自販機オペレーターは募集時に大手飲料メーカーの名前を掲げ、一般的に高く見える給与を示す」。総合サポートユニオンの青木耕太郎氏はそう指摘する。

提訴後の6月に記者会見した自販機オペレーターの従業員らは、労働環境の劣悪さを訴えた(記者撮影)

今回訴えられたシグマロジスティクスの正社員募集情報を大手求人サイトで見ると、「コカ・コーラ社のトップパートナー」とうたい、初年度の給与の例として、「東京での勤務で月25万円程度、固定残業代は5万5000円(※残業有無にかかわらず支給)」と記されている。

一見したところ、初年度から月収約30万円であれば高い水準に思える。だが、青木氏は月80~100時間の残業を含めると、「従業員の時給単価は最低賃金水準になる」と指摘する。ちなみに、東京都の最低賃金は2019年で時給1013円だ。

飲料メーカーにとって、自販機オペレーターは販売促進をしてくれるうえに膨大な業務を請け負ってくれる存在だ。今の時代、企業は自社商品のサプライチェーンで働く人々の雇用や労働環境にも目を配ることが求められている。

コカ・コーラボトラーズジャパンHDは2018年に「サプライヤー基本ポリシー」を定め、取引先企業に対しても労働時間や賃金を含めた法令を遵守するよう求めている。子会社を通じて自販機オペレーターの労働環境改善を求めるとした同社の姿勢は一定程度評価していいだろう。

飲料メーカーは自販機オペレーターの労働環境をどう把握し、改善すべき問題があるときにはどう対応していくのか。これは業界全体に共通する課題だ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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