需要回復が遅れる電力業界、投資負担増加により収益性と財務の改善は鈍化する見通し《スタンダード&プアーズの業界展望》

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アナリスト 柴田 宏樹

スタンダード&プアーズは、2008年秋以降の景気の大幅な悪化局面でも、電力業界各社の業績の安定性は高いと見ており、格付けやアウトルックを変更していない。だが、今後の収益や財務改善の進展は鈍化する可能性が高まってきていると見ている。今後2~3年間の電力需要は低位ながら安定成長へ向かうものの、景気回復ペースの減速から、足元の需要回復は遅れる可能性があると考えている。また、原油価格が再び高水準で推移しつつある中、運転停止中の原子力発電所の再開が遅れた場合、業績や財務へのマイナスの影響も懸念される。加えて、安定供給体制の維持向上のための設備投資や海外投資、さらに環境対応コストの上昇懸念なども収益の回復や財務改善に対して下方圧力となると見ている。

国内電力需要の持続的な安定成長には時間がかかる見通し

自動車、電機業界などの製造業を中心とするいわゆる大口産業向けの電力需要は、08年11月以降、対前年同月比でマイナスが続いている(09年11月時点、図表1参照)。一般家庭用(電灯)の需要は、減少幅が小さく比較的安定しているものの、全体の電力需要の落ち込みをカバーできていない状況が続いている。

電力需要は景気動向に影響を受けるため、持続的な安定成長基調へ回復していけるかには依然不透明感が強い、と見ている。スタンダード&プアーズの経済見通しによれば、10 年の国内の景気回復ペースは減速するものの、海外経済の回復が続けば、年後半に再び回復ペースが持ち直すとしたうえで、10 年の日本の実質国内総生産(GDP)成長率見通しを1.0~1.5%とした。大口向け産業向けを中心に電力需要に関しては、足元の電力需要の回復は遅れる可能性もあり、持続的な安定成長基調へ回復していけるかには依然慎重な見方をしている。

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