需要回復が遅れる電力業界、投資負担増加により収益性と財務の改善は鈍化する見通し《スタンダード&プアーズの業界展望》
安定供給体制の強化と環境対策などで投融資負担は続く
近年、電力各社は新規の大型電源開発の本格化、燃料の安定調達をにらんだ海外投資案件の増加など、安定供給体制の維持強化を目指して、投融資を増加させている。電力各社の設備投資額は、06年3月期を底に増加しており、来期も今期並みの水準となる計画である(図表2参照)。北海道電力(原子力発電所、泊3号機)、中国電力(原子力発電所、島根3号機)、沖縄電力(LNG火力発電所、吉の浦1、2号機)、電源開発(原子力発電所、大間)は、新規の大型電源開発の投資負担を続けている。また、一部電力会社では、LNGバリューチェーンの強化をにらんだ海外LNGガス田など、上流権益への投資や成長戦略としての海外IPPへ投資しており、中長期的にも投融資が続く見通しである。
また、環境対策を優先する傾向にあり、これまでの原子力発電所の安定した稼働率の向上、火力発電所の熱効率の向上、再生可能エネルギー(風力発電や太陽光発電など)の拡大に加え、排出量権の購入も拡大していく可能性が高まっている。長期的にみれば、設備投資やコスト負担が膨らみ、利益や営業キャッシュフロー、ひいては財務改善に対して下方圧力が高まる可能性が高まりつつあるとみている。
09年9月中間決算では、電力各社とも、燃料費高騰によるスライドタイムラグのマイナス影響がほとんどなくなり、一部の原子力発電所の稼働率も改善したため、キャッシュフローカバレッジ(営業キャッシュフローと有利子負債総額)、資本・負債構成(有利子負債総額/資本総額)の水準は改善に転じているが、06年3月、07年3月の水準まで改善していない企業も多い。