西浦教授が語る「新型コロナ」に強い街づくり 「移動の制御」を正面から議論すべきときだ 

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――一方で産業への影響はどうでしょうか。これまで、地産地消やスローライフなどが、エネルギー消費抑制や地方創生、食料問題、サプライチェーン見直し、IT活用や働き方改革などの視点から語られてきました。これらは感染症に強い街づくりと親和性が高いでしょう。しかし、グローバル化や国際分業を重視し、自由や個人の権利を尊重する人たちからはネガティブな反応が出ることが予想されます。

グローバル化によって効率的な分業化を進めてきた産業界に影響は出る。ただ、産業界全体がダメージを受けることはないだろう。今でも航空会社の状況が大変厳しいが、交通系産業や観光・宿泊業などは割を食ってしまう。現在の交通ネットワークを捨ててしまうのではなく、感染リスクを高めない形で分業的な生産体制や物流を維持・拡大する代替策を考えていく必要がある。

移動の制御についても、感染症リスクを踏まえたうえでの社会の仕組みとして必要だと認識されれば、移動の自由を唱える人たちとの間で最適解を見いだしていくことはできると思う。いずれにしても、みんなで知恵を出し合っていくことが重要だ。

感染症への適応は欧州が先行する?

ときに誤解も拡散されるオンラインニュースの時代。解説部コラムニスト7人がそれぞれの専門性を武器に事実やデータを掘り下げてわかりやすく解説する、東洋経済のブリーフィングサイト。画像をクリックするとサイトにジャンプします

――日本より、欧米のほうが新型コロナの被害が甚大です。長期的な社会のあり方についても、海外で議論が先行する可能性がありますね。

脱炭素化もそうだが、特に欧州は環境に応じて柔軟に社会を変えようとする動きが起きやすい。感染症に対するレジリエンス(弾力、復元力)の強化にも拍車をかけそうだ。ドイツでは、経済学者と疫学者をブリッジして、流行対策を提唱するなどの取り組みが進んでいる。DFG(ドイツ研究振興協会)では、街のあり方についてプロジェクトを始めようという動きもある。

――コロナ対策による日本の国債発行はすでに約60兆円に上ります。流行のたびに巨額の国債発行が必要になるなら、投資コストをかけて感染症に強い都市計画を進めるほうがトータルコストは安いと、霞が関でも受け止められそうです。大地震や大型台風・水害などでは、すでに公共事業でそうした取り組みが実行されています。

欧米の研究機関では、予防・治療に向けた研究開発投資やPCR検査を拡大したほうが最終的なロスは少ないといった論文が出ている。同じことは街づくりにも言えるのでないかと思っている。

また、政府は一部の国と出入国を正常化させる動きを見せているが、必要不可欠な渡航を峻別するなど、トップダウンでの移動の制御をオープンに議論するチャンスでもある。長期的な取り組みで島国の日本だけが後塵を拝することになるのではなく、人々が現実的に感染症リスクの重要性を感じている今こそ議論を始めるべきだろう。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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