「コロナはただの風邪」と言う人が知らない事実 「検査増加で陽性者が増えた」はデータの誤読

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しかし、重症者や死亡者は陽性者数よりも遅れて発生する。「第1波」のデータを見ると、日別の新規陽性者のピークが4月中旬だったのに対して、重症者は4月末まで増加傾向が続いた。死亡者の新規発生ピークも5月初頭だ。「第2波」も同様に、陽性者数の増加が重症者数や死亡者数に波及するまで2週間前後かかる可能性は十分にある。

同様に、厚生労働省や地方自治体が発表する新規患者の軽症・重症分布を見て「重症者がいないから大したことがない」とする向きもあるが、入院時点では軽症扱いでも、その後に病状が悪化して重症となる可能性はある。患者の発生と重症者の発生が同時でないことには注意が必要だ。

新型コロナは若年層には無害?

最後に、「新型コロナにかかっても、若年層はほとんど重症化・死亡しないから平気」という説について。これは「なぜ高齢者を守るために若者である自分たちが自粛を強いられなければならないのか」といった、インターネット上で見られる高齢者バッシングに伴って主張されることが多いようだ。

たしかに、新型コロナによって重症化・死亡する若年層は多くない。厚生労働省の集計による年齢層別の状況を見ると、死亡者の95%、重症者の84%を60代以上が占めている。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」(7月8日時点)より、年齢層別の陽性者数と死亡率、重症者割合。グラフが表示されない場合は東洋経済オンラインのオリジナルサイトをご覧ください。

 

しかし、重症や死亡のリスクが低いことは「かかっても問題ない」とは異なる。若年層の死亡もゼロではなく、20代でも1名、30代では4名の死亡者が出ている。

そもそも厚生労働省の定義では、重症とはICU(集中治療室)への入室や人工呼吸器の装着を指す。何らかの処置を行わないと死に至る危険性が高い状態という意味であり、一般に想像されるイメージとは異なることに注意が必要だ。

また、重症でなくとも後遺症が残る懸念もある。イタリアやオランダでは、軽症であっても肺にダメージが残る可能性があるとの報告もなされている。厚生労働省も、新型コロナウイルスから回復した患者を対象に後遺症の実態調査に乗り出すことを7月10日に発表した。

加えて、新型コロナは医療従事者への感染リスクを含め、受け入れる病院のリソースに大きな負担をかける。新型コロナだけでなく、平時であれば適切に対処できたであろう怪我や病気への対応に影響を与えるおそれもある。

新型コロナは、たしかに不治の病でも致死率が著しく高い病気でもないかもしれない。しかしそれは「かかっても平気」というわけではなく、ましてや「コロナはただの風邪」などと見くびるべきではない。

荻原 和樹
おぎわら かずき / Kazuki Ogiwara

2010年筑波大学卒。共著に『プロ直伝 伝わるデータ・ビジュアル術』(技術評論社)。

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