コロナで強制移住した男性「田舎暮らしの実態」 食事や仕事、生活費、人間関係はどうなのか

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4月には緊急事態宣言が出たため、田舎では高齢者が多いことから感染への警戒感が強まり、荷物を取りに帰るだけでも神奈川県の家には戻れないような雰囲気となった。相方にとっては大きな誤算だったかもしれないが、筆者にとっては願ったりかなったり。こんな形で、本格的な三重県の古民家での移住生活が始まった。

筆者は5年前に20年以上勤めた東京の会社を退職した後、海外で過ごした期間を除いて、田舎暮らしのための物件を探し求めて、全国の数十件を見回ってきた。ところが、景色や建物状態、価格などで家族が折り合う物件にはなかなか出合うことができなかった。移り住んだ三重県の古民家は、その中でも最も条件のいい物件だったことが決め手となった。

水やエネルギーを「自給」できるという安心感

田舎の物件は、ご先祖様の遺影がそのまま飾られていたり、ほぼゴミ屋敷のような状態で物が放置されていたりして、購入に二の足を踏む場合も多い。が、筆者が住むことになった物件は、日当たりのいい高台にあり、住宅の前には約200坪の畑がある。

自宅前には段々畑が広がる(筆者撮影)

内見した際も、多くの物件で感じた、人が長らく住んでいないために生じるかび臭さがなく、約10年間も人が住んでいなかったとは思えない状態を保っていた。古民家に畑のほか、隣接地や近くに計2カ所の小さな山林が付いており、価格も手頃だった。

生活インフラの大きな部分を外部に頼らなくても済む設備が整っていたことも大きい。電動ポンプで敷地内の各所に水を供給する井戸があり、加えて、沢水も池に引き込んでいた。台所には、都会から来た者には文化財級に見えてしまう、薪で料理する「おくどさん」(竃)があり、風呂も一見すると普通の風呂に見えるハイブリット式の五右衛門風呂だったことも、物件購入の決断を後押しした。

この集落では今も「おくどさん」が使われている(筆者撮影)

実際に住んでみて、水やエネルギーを自給する安心感は大きい。電気は、契約を15アンペアに抑えており、毎月の水道光熱費の支払いは電気代の千数百円のみ。高速インターネットは、ケーブルテレビ会社が月額2500円で提供しており、神奈川県に住んでいたときよりもネットへの支出や通信環境が改善した。

水は、塩素による消毒もない天然水であり、これを薪で沸かす五右衛門風呂は温泉のように心地よく、体の芯から温まる。風呂を沸かすのも薪だが、調理や冬期の暖房も薪を使っている。冬場は薪ストーブの上で煮炊きし、暖房を使わなくなった今の時期は七輪を庭に2台並べてご飯を炊いたり、煮物を作ったりしている。ガスで料理するよりも、火を使うのは楽しいし、何といっても美味しい。

食べる以上の野菜を供給してくれている畑も大活躍だ。都会生活では、とくに冷蔵庫の野菜室の管理に苦労することが多かったが、こちらではつねに野菜室は空っぽの状態。今は、トマトやナス、インゲン、ブロッコリー、キュウリ、ネギ、ジャガイモなど数え切れない種類の野菜が採れており、収穫したばかりの野菜で料理している。

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