急拡大するESG投資で日本が抱える最大の課題 白井教授が語るエンゲージメントの重要性

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エンゲージメントの手法について白井氏はこう説明する。

白井 さゆり(しらい さゆり)/1963年生まれ。1989年慶應義塾大学大学院修了。1993年コロンビア大学経済学部博士課程修了(経済学博士)。国際通貨基金エコノミストなどを経て、2006年から慶応義塾大教授。2011年4月~2016年3月に日本銀行政策委員会審議委員を務める。2016年9月から現職。

「エンゲージメントは非常に時間と手間がかかる。まずはフェデレイテッド・ハーミーズEOSの独自のESG方針を基に対象企業が逸脱していないか確認する。当然、事前に対象企業の有価証券報告書やESG関連のレポートを全部読むだけでなく、数多いESG評価会社によるスコアや格付け評価レポートも含めて下調べをする。NGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)との間で森林破壊などの訴訟を抱えていないか、どのような批判を受けているかなど、最近の関連ニュースも調べ、いくつかの問題点に絞り込んで対話を申し込む。

そして面談での率直な意見交換などを通じ、企業に早期の対応、温室効果ガス(GHG)排出量や女性管理職の割合などの一段の情報開示と目標設定を求める。それらの進展度を毎年チェックし、同時に国内外の規制の考え方や新しい世界の潮流も説明し、ESGの観点から経営を改善してもらうというのがエンゲージメントの目的だ。株主総会での企業側の議案や株主提案に対し、機関投資家に対して賛否を推奨することもある」

投資家と企業との関係を指す言葉としてはアクティビズムもある。これは、株主利益を追求するために企業経営に積極関与したり株主総会で議案を提示したりするなどの幅広い概念で、アクティビスト(物言う株主)による取締役派遣など企業経営への深い参画も含まれる。エンゲージメントはアクティビズムというよりも、対話を通じて対象企業の行動の段階的変化を求める比較的穏健なアプローチであり、より長期視点での非財務的な経営改善への働きかけといえる。

コロナ禍がESGへの関心を高めた理由

ESG投資が急拡大した契機としては、2015年9月の国連サミットにおけるSDGs(持続可能な開発目標)の採択と、同年12月のCOP21(第21回気候変動枠組条約締結国会議)におけるパリ協定の採択がある。

とくに要因として大きいのがパリ協定で、産業革命前と比べてすでに1.1度上昇している世界の平均気温を2050年時点で2度未満の上昇にとどめ、さらに1.5度に抑えることが努力目標とされた。だが、世界各国が示した目標値をすべて集計しても、まったく足りないのが現実。今のままだと3度以上に上昇する可能性もあり、各国は取り組みの強化を迫られている。

そうした中で新型コロナ禍が発生し、ESGに対する関心が一段と高まった。白井氏は、「新型コロナウイルス発生の真因はわかっていないが、感染症などの多くは生態系に関係すると言われており、突き詰めればESGのEに関係すると意識されている」。

「また、ロックダウン(都市封鎖)や経済活動自粛によって、今年の世界のCO2排出量は前年比8%減少すると推定される。パリ協定の1.5度目標を達成するにはまさに毎年8%程度の排出削減が必要であり、コロナ禍で皮肉にもその目標達成が可能だということも再認識された」と指摘する。

そのうえで、「もちろん、ロックダウンによって厳しい経済状況をつくりだして目標を達成するのではなく、規制やイノベーション、人々の生活様式や企業のビジネスモデルを変えていくことで達成していく必要がある。だからこそ、企業の間でもESG経営への意識が盛り上がってきた」と話す。

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