「公共放送=番組の質が高い」と信じる人の盲点 米国では教育番組制作も民間が担っている

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しかしアメリカの放送事業者についていえば、アメリカにはそもそも「公共放送」という概念が希薄です。後述する公共放送サービスという、アメリカ政府などの補助金で運営している組織はありますが、一般にはマイナーな存在です。そのため、アメリカは世界で最も多様な放送サービスが展開される市場になっています。百花繚乱のケーブルテレビや衛星放送が全米に浸透した、世界一の多チャンネル社会といえるでしょう。

きっかけは、連邦通信法を改正した「1996年電気通信法」の成立以降、放送と通信の垣根が事実上、撤廃されたことです。1990年代後半から始まるインターネットの普及とともに、放送業者は他社にないコンテンツを視聴者に届けようと競って価格、サービス、利便性の高い伝送技術を開発しました。番組制作と経営を民間に委ねた結果、アメリカはヨーロッパを凌ぐ世界最大の市場へと成長したのです。

アメリカの例外的な公共放送は「教育」分野

ただし例外として、自由競争市場のアメリカにも限定的な公共放送は存在します。「非商業教育局」として免許を付与された放送局のことです。その多くは、非営利団体であるPBS(Public Broadcasting Service)に加盟しています。主な財源は寄付、企業協賛金、政府交付金、自治体や大学などからの交付金、財団からの寄付によるものです。

約350ある非商業教育局の各局はそれぞれ独立した編集権を持っており、PBS自体は番組制作を行わず、加盟局がつくった番組や外部から調達した番組を全米の加盟局に配信することに専念しています。

PBSは必要最小限の放送網しか持たず、さらに放送するコンテンツは、公共性がきわめて高い「教育」の分野に限定されています。日本やヨーロッパで「公共性が高い」と思い込んでいるニュースや災害報道、スポーツのコンテンツ提供は、民間放送が担っています。

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NHKを擁護する人は、BBCなどヨーロッパ型の事例にしか言及せずに「公共放送は必要だ」というのですが、無知もしくはミスリードによるものです。アメリカの例を見れば「民間にできることは民間で」という当たり前の常識が、放送局のあいだに行き渡っていることに気づきます。

そもそも日本の放送業界の発端は、民間主体のアメリカ型でした。1920年代からすでに民間の試験ラジオ放送が行われており、1950年代に複数の民間放送事業者が設立されています。1980年代まで公共放送しか存在しなかったヨーロッパと日本は事情が異なります。

既得権益を維持しようとする人のポジショントークや「嘘」に翻弄されてはいけません。目の前にある「公共放送」の枠組みを絶対のものと考えず、ファクトと国民の利便に基づいて判断することが必要です。

高橋 洋一 政策工房会長/嘉悦大学教授

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たかはし よういち / Yoichi Takahashi

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現・財務省)入省。プリンストン大学客員研究員時代、のちにFRB議長となるベン・バーナンキ教授の薫陶を受ける。内閣府参事(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)などを歴任。2007年に財務省が隠す国民の富「霞が関埋蔵金」を公表し、一躍、脚光を浴びる。2008年、退官。現在、大学で教鞭をとる

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