ポストコロナ「日本の対中投資戦略を再考せよ」 「新冷戦」下で日本企業が成功するための要諦

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中国において成功した日本企業のモデルケースは、トヨタ自動車だ。1972年日中国交回復時より、トヨタは中国ビジネスを積極的に手がけてきた。しかし、その努力は必ずしも成果につながらなかった。それにはいろいろな理由があったが、この10年でトヨタの中国ビジネスは大きく変貌を遂げ、今では年間販売台数が162.7万台(2019年)となり、日本市場を超えた。

トヨタは中国に進出している外資自動車メーカーで2位(1位はフォルクスワーゲン)だが、販売伸び率はここ数年では断トツで、今年5月は前年同月比20%増の16.63万台まで伸び、コロナ禍収束後も健在だ。「明確な世界戦略の中の中国戦略」、「先見性と実行力」、「永遠の危機感」、地道な「トヨタファン作り」、そして「客が欲しがる車を提供し続ける力」などがその理由だが、上記の「能力向上」がしっかりとベースになっている。

そして、何と言っても、トップが率先して実行していることが成功のカギだ。トヨタは巨大企業でありながらつねに変革している。

今後の日本の役割

戦後、ブレトンウッズ体制を軸とする「自由で開かれた国際秩序」の中で、日本経済は大きく成長を遂げた。しかしグローバリゼーションが加速し、中国が台頭するにつれ「自由で開かれた国際秩序」は、その新しい変化に対応を迫られている。残念ながら、米中対立を軸とする「新冷戦」は、国際社会における矛盾や問題を激化させ、混沌した無秩序感を醸し出す。このような情勢の中での日本の役割は何か。

API理事長の船橋洋一氏が強調する、「国際協調とルールに基づく多角的な国際秩序を根付かせる『シェパード』役(案内人)」がその答えかもしれない。

2017年、アメリカは環太平洋パートナーシップ(TPP)より離脱したが、日本はその他10カ国と協調しながら、万難を排し「包括的先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」を取りまとめた。その後、2018年には難しい交渉の末、日本EU経済連携協定を結んだ。

これらの協定は、目下の世界において関税撤廃など貿易自由度が最も高く、かつ知的財産権保護や投資ルールが最も厳しい包括的経済連携協定だ。それを日本がリードして実現したことに多くの国から称賛の声が上がった。CPTPPや日本EU経済連携協定は、国際経済秩序の形成に新しい方向性をもたらしたと言っていいだろう。

ただ、国際経済秩序の形成は、米中両大国を巻き込んで初めて完成される。その重い任務である「ルールに基づく新国際秩序」のシェパード役を、日本は引き続き果たせるだろうか。日本の政治のみならず、企業のリーダーも含めた日本の実力が試される時代になった。   

(徳地立人/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
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