ポストコロナ「日本の対中投資戦略を再考せよ」 「新冷戦」下で日本企業が成功するための要諦

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地政学リスクへの対応は、「ボトムライン思考」が重要だ。それは万一戦闘が起こり「中国ビジネスが操業不能に陥った場合、会社はやっていけるのか?」に答えることを意味する。その答えの1つとして、今議論になっている「日本回帰」、「チャイナプラスワン」(中国以外にも生産拠点を分散させること)、または「地産地消」(生産地で消費できるもののみ生産)などの戦略が選択肢になるだろう。

コロナ禍の反省からみて、医療、穀物、エネルギーなど戦略物資を過度に海外へ依存したり、一極集中したりすることは是正されるのが望ましい。何らかの政府支援策も必要だろう。因みに、米中貿易摩擦が激化した2018年以降、電気・電子機器産業を中心に、中国からベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジアへの移転投資が増えたが、劇的に増えたのは中国の民間企業だった。中国政府が外資の海外移転に敏感になっている中、皮肉な現実だが、生き残るためには当然だろう。

日本や韓国企業は、人件費の高騰などの理由から、数年前より中国への集中を見直す動きがすでに進んでいる。今、注目されるのは、何といってもファーウェイなど中国企業にチップを提供しているTSMCや鴻海など台湾巨大ハイテク企業の中国離れだ。アメリカ移転や台湾回帰の完成により、米中ハイテクディカップリングは決定的になる。

「地経学」リスクへの対応で重要なのは、1つに、「ココム」を想起させるアメリカのELルールを厳守することだ。1980年代に起こった「東芝機械ココム違反事件」のような事柄は、企業の致命傷になりかねない。

2つに、戦略としての「政経分離」を徹底することだろう。「政経分離」とは、「企業は経済活動に集中し、敏感な政治問題に距離を置く」ということだ。「政経分離」策が単独企業の地経学リスクをヘッジできるとは思わないが、少なくとも口実を与えないことはできる。

最後に、リスク対応でとくに重要なことは、個々の「リスク評価」をできる限り具体的に行い、変化する情勢の中で「動態」での対応を怠らないことだ。また地元人材の育成や活用も非常に重要であることは言うまでもない。

求められる組織とリーダーの能力向上

企業が中国で成功するには、究極的には、「中国の消費者に、欲するモノやサービスを、リーゾナブルな値段で、コンスタントに提供できるか」に尽きる。

「新冷戦」下でそれを可能にするには、組織およびリーダーのたゆまぬ能力向上が必要だ。具体的には次のような点が考えられる。

① 正確で早い情報の入手能力と分析能力
② 政府、産業、顧客との強力かつ信頼できる人脈構築
③ 社内外の専門家の活用
④ 緊急時を想定した迅速な組織体制
⑤ 中国に学ぶ謙虚な態度など
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