当然、日本もその中で大きな利益を得た。米中貿易摩擦やコロナ禍による反省から、日本でも「グローバリゼーション見直し論」が盛んだが、世界規模のサプライチェーン網を短期間で変えるのは、現実的ではない。われわれが対応しなければならないことは、5Gなどハイテクを中心とした米中ディカップリングの「新現実」であり、14億人の巨大な市場を放棄することではない。この点は、欧米も同じだ。
こうしてみると、「新冷戦」下の日中関係は、米中対立をベースにした「緊張する地政学的関係」と「経済的な相互補完関係」が長期共存すると予想される。これからの日本企業は、この一見すると矛盾した2重構造の厳しい環境の中で、生き抜く知恵と力が必要になる。
まだある中国の成長機会
急速に進む少子高齢化、企業や地方政府の巨額な負債、厳しい社会格差など国内の構造的問題や厳しい外部環境からみて、中国経済の将来に楽観は許されない。しかし、コロナをいったん収束させ、全国人民代表大会(全人代)において政府が景気刺激策を打ち出した中国経済の回復は主要諸国よりも早いだろう。
また、都市化、産業+インターネット、ITの社会実装が進む過程において、新しいインフラ、消費、サービスの需要が、高い貯蓄率に支えられ大きく伸びるのも確実だ。14億人の膨大な情報がビッグデータに集積され、AIにより分析され、多くの新しいビジネが生まれてくるのも間違いない。その巨大な中国市場を取り込まずに日本企業の将来はありえない。
電子、機械などの製造業のみならず、健康、介護、医療、観光などのサービス産業、食品、飲料、化粧などの消費産業、金融業における保険や証券業、環境保護関連産業などの多くの分野において、日本企業の成長の余地は十分残されている。
たとえ情報通信、ソフトウェア、コンテンツなどの情報産業においてさえ、ELルールを守り、軍事転用可能なハイエンドな製品や技術でない限り、可能性はある。それよりも問題は、日本企業が自己の強みを自覚し、それを中国ビジネスで生かし、勝ち切れる力があるかどうかだ。
中国におけるリスクは、大きく分けて4つある。
2. 国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学リスク」
3. 政府の産業政策、税制などに関する「政策リスク」
4. 商品、技術、財務、顧客、人事、ITなど会社管理にまつわる「マネージメントリスク」
「新冷戦」下で重要なのは、地政学と地経学リスクへの対応だろう。
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