コロナ後にうつ病休職した人を待ち受ける悲劇 「社会的うつ」増加、根っこには労働問題

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「うつ病の診断書をもらって、しばらく休んだらどうだ」――。悲痛の訴えを受け止めようともせず、そう言い放った部長の言葉に耳を疑った。しかし、「冷静な判断ができないほど疲れていたし、休めるなら、と言われるままに従ってしまったんです」。総合病院の精神科を受診したところ、「軽度のうつ病」と診断され、休職することになった。現在、休職に入ってから約1カ月経つが、とても職場復帰する気になれないという。

「僕は過労で、うつ病ではないと思うんです。抗うつ薬は吐き気とか副作用が出て、数日で飲むのをやめました。部長に訴えを聞いてもらえず病人扱いされたことを思い出すと、出社して職場の問題を訴える気力が湧かないんです……」

一方、在宅勤務を経て仕事と向き合う意識が前向きに変化したケースもある。流通大手で広報担当の田中美恵子さん(仮名、38)は、第1子出産後、育児休業取得を経て、1年半前に職場に復帰したが、任される仕事は働くモチベーションを低下させるものだった。

テレワークによる業務効率化で前向きに

「責任のある、質の高い職務は与えてもらえなくなって……。私はもう必要とされていないんじゃないかと思い悩みながら仕事を続けるうちに、心身の疲れを感じるようになったんです」

『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか』(晃洋書房)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

かかりつけの婦人科で不眠や焦燥感を訴えたところ、「疲労に加え、更年期前の症状が出始めているのではないか」という。漢方薬のほかに精神安定剤と睡眠導入剤を処方された。だが、イライラ感などは治まらず、抑うつ症状まで出るようになった。心療内科を受診し、「抑うつ状態」と診断され、「会社を休みたければ、診断書を書きますよ」とまで言われた。
「休みたかったけれど、仕事がしづらくなるんじゃないかと、保留にしてもらったんです」。

そんな田中さんが「社会的うつ」に陥るのを救ったのは、コロナ禍のテレワークだった。

「在宅勤務で心身を休め、仕事のことを考えるうちに、しんどいから逃げるのはいけないと思い直しました。それにウェブ会議とか効率的な働き方の重要性に上司たちも気づき始めたので、育児で残業はできなくても、ITを活用して在宅でこんな仕事もできますと提案しやすくなって、仕事に対して前向きな気持ちになれました」

田中さんは休職することなく、子育てと両立させながら仕事を続けている。

企業は労働問題の解決に向けて真摯に取り組む。働く人たちは職場から逃避することなく、職場環境の改善を訴えていく。アフターコロナは変革のチャンスでもあるのではないだろうか。

奥田 祥子 近畿大学教授、ジャーナリスト

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おくだ しょうこ / Shoko Okuda

京都市生まれ。元読売新聞記者。博士(政策・メディア)。1994年、アメリカ・ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了後、新聞社入社。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、メディア論。2000年代初頭から社会問題として俎上に載りにくい男性の生きづらさを追い、対象者一人ひとりに継続的なインタビューを行い、取材者総数は500人を超える。2007年に刊行した『男はつらいらしい』(新潮社、文庫版・講談社)がベストセラーに。主な著書に、『男性漂流 男たちは何におびえているか』(講談社)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)、『夫婦幻想』(筑摩書房)などがある。

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