コロナ後にうつ病休職した人を待ち受ける悲劇 「社会的うつ」増加、根っこには労働問題

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約1カ月後、職場復帰した山川さんを待ち受けていたのは、「病気」を理由に過小な仕事しか与えられない過酷な現実だった。半年後、5段階評価でいちばん下に落ちた考課結果とともに、子会社への出向を命じられた。年収が1割強下がる降格人事だった。今から1年余り前のことだ。

「仕事が続けられなくなったのはパワハラや過重労働など上司や会社側の問題なのに、結局は『心の病』という私個人の問題にすり替えられてしまった。悔しくてたまりません……」

そう話すと、山川さんはうなだれた。

日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所の2019年の調査では、過去3年間に、うつ病を中心とする心の病にかかる従業員が増加傾向にあると回答した企業は32.0%に上った。同研究所の2012年の調査では、各企業は相談窓口の設置や精神科産業医の配置、休職制度の充実など不調者の早期発見・対応に最も力を入れているが、半数近く(47.2%)が十分な効果を感じていないこともわかった。

企業がメンタルヘルス対策を充実させればさせるほど、うつ病休職者が増加する――。この奇異な現象に疑問を抱いたのが、今から10年余り前、調査・研究を始めるきっかけだった。

うつ病休職を経験した30~50代の男女50人へのインタビュー調査、さらに被調査者とは無関係のプロファイルの異なる精神科医ら専門医6人の再診断によって、うつ病休職者の8割超が医学的な診断基準に該当しない、すなわち真のうつ病ではなかったことがわかった。また、多くが「軽症うつ病」と診断されていた。

そして、生産性低下や休業補償など経済損失を招き、労働者にもキャリア中断という悪影響を及ぼすうつ病問題の根源は、病そのものの拡大ではなく、「社会的うつ」にあるという結論を導き出したのだ。

コロナ後に休職を余儀なくされる人々

労働問題の解決を度外視した、企業のメンタルヘルス対策の充実が、従来は医療の対象ではなかった事象が病気と定義され、医療の対象となっていく「医療化」を進める原因になっていると、私は考えている。

コロナ禍のテレワークは上司らとの意思疎通を図れず、抑うつ症状を訴える人々をさらに増加させた。そして緊急事態宣言が解除され、従来の働き方に戻った途端、「病人」として休職を余儀なくされるケースが出始めているのだ。

中堅専門商社で営業を担当する佐藤孝さん(仮名、35)は、かなり前から課長に過大なノルマを課せられて悩んでいたが、テレワークに入ってから、課長だけでなく、同僚ともうまくコミュニケーションを取ることができず、「孤立した状態」になったという。

「それで出社してみたら……休職する羽目になってしまいました」と思いもよらなかった展開について、ウェブ会議システムを利用した取材で明かしてくれた。5月下旬、通常の勤務形態に戻ってから数日経ったある朝、佐藤さんは起床時にふらついてベッドから立ち上がれなくなった。何とか午後に出社し、部長に、課長からの過大なノルマについて力を振り絞って訴えた。

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