左派復活のためには新しい思想が必要だ--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

拡大
縮小


 20世紀後半になると、左派にとって第三世界の文化を新植民地主義から救い、平等と民主主義を支援することが重要な課題となっていた。左派は、キューバのカストロ、中国の毛沢東、カンボジアのポルポト、イランのホメイニといった野蛮な独裁者たちを、単に「西欧帝国主義に反対している」という理由から擁護したのである。

その結果、マルクス主義から派生したすべての政治は信頼を失い、最終的に89年のベルリンの壁崩壊とともに死に絶えてしまった。これは共産主義者や社会主義者だけでなく、社民主義者にとっても不幸なことであった。彼らは理想主義の思想的なベースを失ってしまったのである。

理想主義が失われた結果、政治は物質的な利害の調整の手段でしかなくなってしまった。これがイタリアやタイの国民が、大企業の経営者に国家の運営を任せるようになった理由である。有権者は、個人資産を巧みに蓄積してきた人物は自分たちにも富をもたらすことができるのではないか、と考えたのである。

新しい理想主義をオバマは築けるのか

しかしながら、理想主義は完全に消滅したわけではなかった。それは左から右に移行しただけだった。この移行は、レーガン大統領とサッチャー首相から始まった。左派は国際主義の主張(民主革命、国家の解放など)を捨てたが、ネオコン(新保守主義)がそれを拾い上げたのである。

民主主義を世界へ普及させるための強力な手段として米軍を活用するというネオコンの思想は、残酷で傲慢で無知で危険なことであったかもしれない。だが、その思想が理想主義的であったことは確かだ。

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT