20代会社員が1人開発した「伊良コーラ」の正体 新商品の「瓶入りコーラ」は2万本が予約済み

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2019年は、「手探りでもがきながら」の1年になった。起業したとはいえ、自分1人。コーラのシロップを製造し、資材をそろえ、週末にマルシェやマーケットに出展するというルーティンだけで、手一杯になった。使用するスパイスは小林さん本人がすり潰し、焙煎して調合するため、時間がかかるのだ。

しかし、それではコーラ市場を支配する2大巨人、コカ・コーラとペプシコーラに食い込むのは夢物語。そこで、パートタイムでオフィスワークや事務的な作業を手伝ってくれる人を少しずつ増やしていき、コーラを進化させるレシピ開発に注力した。

134年前のレシピをベースに、複数のスパイスを使うチャイの配合やジンジャーエールのレシピなどを参考にして、足したり引いたりを繰り返した。

なかでもこだわったのは、アフリカに生える「コラの木」から採れる果実、コーラナッツ。カカオやコーヒーよりもカフェインを多く含み、コーラという名称の語源といわれる。この果実を仕入れるために、昨夏、ガーナに飛んだ。

小林さんによると、「味の骨格をなすものではなく、今現在はコカ・コーラやペプシコーラでも十中八九、使っていない」そうだが、それでもガーナに行ったのは、なぜ?

コーラの実。産地のガーナでは、「神様からの贈り物」と言われている(筆者撮影)

「コーラの実は現地で『神様からの贈り物』と言われていて、すごく神聖なものなんです。結婚式のときに渡したり、祝いごとに使ったりされていて、本当にピースフルでポジティブな精神にあふれたものなんですよね。ガーナで実際に農園を見て回って、その文化的な意味を体験できたのは大きな収穫でした。神様からの贈り物を使うコーラという飲み物もすごくピースフルでナイスな飲み物なんじゃないかって思うようになったんです」

小林さんは「神様からの贈り物」という価値にひかれ、現地から輸入することに決めた。「伊良コーラのコアターゲットは自分」と言い切る小林さん自身が、「神様からの贈り物」が入ったコーラを飲みたいと感じたのだ。

下落合に店を開いた理由

コーラの実に加え、もともとのレシピになかったクローブやカルダモン、ラベンダーなど15種類以上のスパイスと柑橘類を配合することで、伊良コーラの味は深まっていった。さらに、柚子、クロモジ、ぶどう山椒、ニホンミツバチの蜂蜜など、日本各地から集めたボタニカルを使用して作られた「THE JAPAN EDITION」も開発した。その味が評判となり、都内のカフェやバー、百貨店でも取り扱われるようになった。

日本のボタニカルを使用した「THE JAPAN EDITION」(左)と、お客さんからヒントを得たミルクコーラ各550円(筆者撮影)

しかし、小林さんは焦りを募らせていた。伊良コーラが注目されるようになり、メディアへの露出が増え始めてから、「どういう工場に委託してるの?」と聞かれる機会が増えたからだ。伊良コーラは手作りだからクラフトと名乗っているし、それをいちばん大切なこととして伝えてきたつもりなのに、まったく理解されていなかったことに危機感を抱いた。

さらに、後発のさまざまなクラフトコーラメーカーが委託製造しているという話を聞いて、伊良コーラが大事にしていることをお客さんに丁寧に伝える必要性を感じた。そこで、店舗作りに動き始めた。

「ガラス張りで、実際にコーラを作っているところが見えるお店を開こう」

当初は、自身が住んでいた祐天寺に店を開こうかと考えた。祐天寺は中目黒に隣接し、ブルーボトルコーヒーがオープンするなど、最近、にぎわっているエリアだ。

そこでふと立ち止まって、地元の下落合に目を向けた。高校を卒業してからはたまに帰省する程度で、特別な思い入れはなかったが、自分のルーツは下落合にある。祖父の良太郎さんが1954年に「伊良葯工」を開き、そこで遊び、漢方に触れてきた。その生い立ちが、今につながっている。緑が多く、神田川沿いの桜並木は年間300万人が訪れる目黒川の桜に勝るとも劣らないほど美しい。その割に、まったく注目されていない。

コカ・コーラとペプシが使わなくなったコーラの実に目をつけたように、埋もれた価値に光を当てるのが、伊良コーラらしさ。離れたことで気づいた下落合のよさをもっと知ってもらいたい。地元に恩返ししようという思いから、下落合で店を開くことを決めた。

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