20代会社員が1人開発した「伊良コーラ」の正体 新商品の「瓶入りコーラ」は2万本が予約済み

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小林さんを見て、「おお、この人だ」と思い出が蘇る。2018年10月21日、渋谷の国連大学前で毎週末開催されている青山ファーマーズマーケットに家族で行ったとき、深緑色のキッチンカーで出展していた小林さんを見かけたのだ。

「クラフトコーラ」という聞き慣れない言葉と、カワセミが描かれたおしゃれな看板に興味をひかれ、妻の分と合わせて2つ注文した。小林さんが、手際よくビニールパウチにシロップを入れ、炭酸水を注ぎ、ストローをさす。2つで1000円。東南アジアでよく見るスタイルにワクワクしながら、どんな味だろうと一口飲んで、ハッとした。

コカ・コーラやペプシコーラとは異なる、スパイシーで爽やかな風味。コーラといって思い浮かぶ独特の甘み(決して嫌いじゃない。とくに映画館のポップコーンとは名コンビだ)は一切なく、口の中にシュワッと拡がる清涼感。普段、コーラを飲まない妻も「これはおいしいねえ」と言いながら、あっという間に飲み干した。

この日、僕はフェイスブックに写真をアップし、「国連大学前のマーケットで、初めてクラフトコーラを飲んだ。伊良コーラ、非常においしかった。今度、取材しようかな」と投稿している。それから1年半以上経って、取材が実現した。

風邪薬を知らなかった少年

小林さんは1989年、下落合で生まれた。今お店がある場所では、小林さんの祖父で漢方の調合をする職人だった伊東良太郎さんが、「伊良葯工」(いよしやっこう)という工房を開いていた。

小林家では体調を崩すと「漢方を飲む」のが当たり前の習慣で、小林少年も風邪をひくといつも、金色のゴマ粒ほどの生薬を与えられた。それが数粒で5000円もする高価なものだと知ったのは、もう少し大きくなってから。「何かを煎じて飲むのが普通だと思っていたので、子どもの頃はいわゆる風邪薬の存在を知らなかったんです」と笑う。

小林少年にとって、良太郎さんは「イタリアのシチリアとかにいるような、マフィアの親分みたいな雰囲気(笑)」だったという。しかし孫にとっては優しいおじいちゃんで、幼稚園の頃から工房で遊んだり、簡単な手伝いをしていた。

ところが、思春期に入ると漢方の匂いが服についたり、友人たちの目を気にして、工房から距離を置くようになった。そのまま高校卒業を迎え、大学は北海道大学の農学部に進学した。

「中学、高校時代は自分らしい生き方が全然できていなくて。でも大学に関しては何学部がかっこいいとかありませんよね。それで、自分のやりたいことをやろうと思ったんです。祖父の仕事も漢方という自然由来のものを扱っていましたし、下落合は緑豊かで、子どもの頃から自然とか生き物とかすごく好きだったので、農学部を選びました」

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