「批判的破壊力」を持った「使える資本論」再び マルクス研究の若き俊英が考える「魂の包摂」

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「全存在の包摂」が完成してしまったら、もはや抵抗の余地はないのでしょうか(写真:zaksmile/PIXTA)
「新自由主義」に奪われた「魂や感性」を取り戻すという視点から書かれた『資本論』入門書で、ベストセラーとなっている『武器としての「資本論」』(白井聡・著)。
世界的なマルクス研究最高峰の賞「ドイッチャー記念賞(2018年度)」を日本人初、最年少で受賞した期待の俊英であり、NHKBSスペシャル「欲望の時代の哲学」出演などでも知られる斎藤幸平氏は、同書をどのように評価したのか。

研究者からみてもすばらしい入門書

『武器としての「資本論」』は間違いなく、名著だ。ずっとマルクスを研究してきた私でさえも、マルクスの『資本論』をもう一度、手に取ってみようという気分になる。今の社会をより深く理解するために、『資本論』が使える気がしてくるのだ。

『武器としての「資本論」』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

そのような刺激的な読書体験に促されて書かれただろう、本書を扱う素敵な書評はすでにいくつもでている。だから今更、この本を絶賛する書評を、私がもう1つ書いたとしてもあまり意味がないだろう。

数多くの書評があるなかで、今回私が書評を書く意味があるとすれば、それは、これまでの書評にマルクス研究者によるものがないからである。読者のなかには、「こんなにわかりやすくてだまされているのではないか?」と思っている人もきっといるに違いない。

だから、専門家がこの本をどのように評価しているのか、という点について興味をもつ人もいるのではないか。

まず繰り返しておきたいが、研究者の目線からみても、これはすばらしい『資本論』の入門書である。世の中にマルクスや『資本論』の入門書は無数にあるが、冒頭では、「そのすごさが生き生きと伝わってくるものが見当たらない」とハードルをとても上げるようなことが書いてある。だが、この本を読むと、そのハードルを越えて、言いたいことが伝わってくる。

次ページ『資本論』第1巻冒頭の「価値形態論」はその典型例
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