ホンダが「軽トラ生産中止」を決断した理由 ダイハツ、スズキの2強に勝てなかった苦悩

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こうした基本コスト増の傾向が強まる中では、他社とのコスト競争も厳しさも増してくる。スズキ「キャリイ」の開発担当者は「軽トラックはコスト最優先」と言い切るが、一方のホンダとしては、高付加価値で他社より少し割高なNシリーズという商品性を考えると、Nトラックは現時点で量産ベースに乗らないのだろう。

ホンダは5月12日に実施した2020年3月期決算でも、コロナ禍によって直近で行っている事業の「選択と集中」をさらに厳しく検証するとしており、軽自動車はNシリーズにおける乗用強化がさらに推し進めると考えられる。

そうした中で、ホンダ旧世代の設計思想ともいえるアクティ・トラックが、その使命を終えることになるのは仕方のないことだろう。

次世代の軽トラックはEVになるのか?

ホンダは今、ホンダ史上最大の社内変革期にある。2019年度、研究所の体制を大きく見直したうえで、2020年度からは4輪の量産体制で2輪と同じく本社と研究所が完全に融合する組織へと刷新した。

こうした中で、商用車という考え方について大きな変化が起こる可能性がある。それが、ライフクリエーションセンターの存在だ。農耕機、発電機などのパワープロダクツ部門とロボティクス部門が融合し、2019年度に発足した。

福井県勝山市の鷲田商会で販売されるホンダのパワープロダクツの中古品(筆者撮影)

農業や建築業など、商用車よりも作業車という側面が強い軽トラックを、ライフクリエーションセンターによる新たな発想によって生まれ変わらせることも、十分に考えられる。

移動距離が少なく、また走行ルートがある程度予測がつく軽トラックならば、パワートレインの電動化を想定しやすい。電動化すれば、各種電動工具への充電なども考慮できるはずだ。

決算報告でも、ホンダの八郷隆弘社長は「ウィズ・コロナ」から「アフター・コロナ」の時代に向けて、新しい生活様式の提案として、地域での電力の地産地消を考慮した「eMaaS(イーマース)」実用化の可能性を示唆している。

今回、アクティ・トラックの歴史に幕が下りる。それと同時に、ホンダの原点である「技術は人のために」に対する挑戦が、次世代へと受け継がれることを期待したい。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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