ホンダが「軽トラ生産中止」を決断した理由 ダイハツ、スズキの2強に勝てなかった苦悩

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ホンダとしては、業界用語でいうディスコン(ディスコンティニュード:生産中止)については通常、「プレスリリースを出すことはしていない」としており、アクティ・トラックについても同様の対応だという。

販売会社向け資料にあるように、アクティ・トラックの2021年6月生産中止は事実で、販売店ではユーザー向けに「生産中止間近」とのお知らせを提示しているケースもある。

では、なぜディスコンになったのか。最も大きな理由は、販売台数の減少だ。

ホンダとしてデータ取得が可能な1986年からの販売台数の推移を見ると、1980年代後半から1997年までは、1993年の7万1343台をピークに年間6万~7万台をコンスタントに販売している。

アクティ・トラックは1977年に登場。1988年、1999年、2009年にモデルチェンジを行っている。写真は販売のピークを迎えた1990年代のモデル(写真:ホンダ)

それが、1990年代後半から2000年代にかけて、5万、4万、3万……、そして2万台へと段階的に減少し、近年では1万5000台レベルまで落ちていた。

軽トラック市場全体では、直近で年間およそ18万台あり、そのうちダイハツ「ハイゼット」シリーズがシェア4割強、スズキ「キャリイ」シリーズが3割強を占める。それに対してホンダは1割弱にとどまっていた(2019年度、全国軽自動車協会連合会調べ)。

そうした中、市場関係者の間では、軽トラ市場が今後拡大する可能性は低いという見方が多い。1970年代には軽自動車全体のうち約半数を軽トラが占めていたが、今では1割程度まで減少しているからだ。今や軽の主役は、スーパーハイトワゴンなどの軽乗用車である。ホンダはN-BOXのヒットを続けており、今後さらに軽乗用の拡充を優先し、軽商用は当面、N-VANに集約する可能性が高い。

だとすると、N-VANベースのNトラックは登場しないのだろうか。

N-VANをベースにした「Nトラック」の実現性は?

アクティ・トラックのタフネスの根底には、エンジン搭載位置が後輪の少し前にあるリアミッドシップで、駆動輪が後輪のMR方式であることが大きい。そのうえで設計されたサスペンションにより、高い走破性と走行安定性を実現している。

ホンダによると、2019年度の販売実績では4WDが77%、2WDが23%。トランスミッションはMTが90%、ATが10%で、タフな使い方での需要が多いことがわかる。

また外装色では、タフタホワイトが80%と圧倒的に多く、次いでアラバスターシルバーが10%。残りの10%がベイブルーとナイトホークブラックパールだ。

2018年にデビューした商用車「N-VAN」はFFベースでフルフラットな低床が特徴(筆者撮影)

2018年に登場したFFベースの「N-VAN」を軽トラックに仕立てる術もあるはずだ。N-VANは「アクティ・バン」の実施的な後継モデルであり、“Nトラック”を期待する声は販売会社やユーザーからも当然、出てくる。

実際、Nトラック構想について、本社(本田技研工業)と研究所(本田技術研究所)で検討された模様だが、現時点では量産の可能性は極めて低いと思われる。

理由として考えられるのが、車両の構造上、アクティ・トラックのような他社との明確な差別化と優位性を出すことが、Nトラックでは難しいためだろう。また、近い将来を考えると、高度な運転支援システムのさらなる拡充や、パワートレインの電動化への対応も必要だ。

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