「イスラエル・イラン」サイバー攻撃応酬の実態 各国の「能力強化、人材選抜方法」の中身とは

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この部隊が採用にあたって、とくに注目している教育プログラムが2つある。1つ目は、貧困地域の優秀な高校生を対象にした3年間の特別課外授業プログラムだ。選抜試験に通ると、週に2回、3時間ずつプログラミングなどの授業が受けられる。宿題も多い。

この特別課外授業プログラムで重要視されているのは、生徒が道を踏み外し、サイバー犯罪に手を染めないようにすることだ。そのため、サイバーセキュリティにおける倫理観についての授業もある。

2つ目は、イスラエル教育省が高校4年生向けに70校で設けているプログラミングやロボット工学の教育プログラムである。ただし、これは富裕層の住む地区にしかない。

選抜のポイント

注意しなければならないのは、上記の教育プログラムを完了しても、8200部隊に入れるとは限らない点だ。徴兵制度のあるイスラエルでは、高校卒業後、男性は3年、女性は2年、兵役に就く。徴兵された若者には、まず、心理テスト、適性試験、健康診断、面接が行われる。8200部隊に選ばれるのは、そのうちわずかトップ1%のみである。

意外なことに、選抜の決め手になるのは、必ずしも技術的な知識だけではない。それは後から学んで身に付けられるからだ。なんでも鵜呑みにせずに客観的・合理的に考える力があるか、自ら進んでスキルを身に付ける意欲と能力があるか、リーダーシップはあるか、いい対人関係を築けるかなどが総合的に判断される。

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軍という性質上、民間にはない厳しい環境下で、高いストレスにさらされる。そのような状況にあっても、仲間と協力して問題に取り組めるか、知らないことがあっても他者から謙虚に学べるかどうかは、重要な資質となる。

無論、ITやコンピューター科学の知識は、サイバーセキュリティの仕事にとって不可欠だ。しかし、全員が同じ知識やスキルしか持っていなければ、次々に新たな攻撃を編み出してくる攻撃者に対抗できない。柔軟に、今までにない解決策を見いだすには、異なるバックグラウンドを持った隊員が集まり、チーム一丸となって協力することが大切と考えられている。

さらに、8200部隊では、「ハッキングされないシステムなど存在しない」という前提に立って、任務に当たる。だからこそ、守るべきシステムを洗い出し、注意深くサイバー攻撃の兆候を監視することが重視されるという。

松原 実穂子 NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト

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まつばら みほこ / Mihoko Matsubara

早稲田大学卒業後、防衛省にて勤務。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院に留学し、国際経済・国際関係の修士号取得。修了後ハワイのパシフィック・フォーラムCSISにて研究員として勤務。帰国後、日立システムズでサイバーセキュリティのアナリスト、インテルでサイバーセキュリティ政策部長、パロアルトネットワークスのアジア太平洋地域拠点における公共担当の最高セキュリティ責任者兼副社長を歴任。現在はNTTのチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストとしてサイバーセキュリティに関する情報発信と提言に努める。著書に『サイバーセキュリティ 組織を脅威から守る戦略・人材・インテリジェンス』(新潮社)。

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