「イスラエル・イラン」サイバー攻撃応酬の実態 各国の「能力強化、人材選抜方法」の中身とは

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サイバー攻撃から半月後の5月7日、アメリカのフォックスニュースは、イランが攻撃したと報じた。ニューヨーク・タイムズ紙はより具体的に、イスラム革命防衛隊のサイバー部隊の仕業としている。ただし、イラン国連代表団の報道官はイランの関与を否定した。

5月9日付のワシントン・ポスト紙オンライン版は、情報機関関係者の話として、イランが少なくともイスラエルの2カ所の地区に対してサイバー攻撃を行い、水道供給を妨害しようとしたと報じた。組織的なサイバー攻撃だったが、高度ではなかったという。

イランがイスラエルに対してサイバー攻撃を仕掛けるのは、今回が初めてではない。2019年1月にテルアビブで開催された国際サイバーセキュリティ会議「サイバーテック」でベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「イランはイスラエルを日々攻撃している。われわれはそれを毎日監視し、防止している」と語った。

例えば、2019年2月、イスラエル国防軍は、イランのイスラム革命防衛隊のハッカー集団がイスラエルのミサイル警報システムへのサイバー攻撃を1年以上前に試みていたことを明らかにしている。攻撃が成功していれば、ロケット弾や迫撃砲からイスラエルを守るためのミサイル警報システムが止まってしまう恐れがあった。

イスラエル、イラン港湾に反撃か

イラン南部に位置し、ホルムズ海峡に面したシャヒド・ラジャイ港は、イラン総港湾取扱貨物(コンテナ取扱量ベース)の8割以上、海外との貿易の約半分を担う。5月9日、イラン最大の規模を誇るその大事な港の業務が突如妨害を受けた。船舶、トラック、貨物の流れを司るコンピューターが一斉にクラッシュしたのだ。その結果、周辺の水路と道路で大渋滞が発生、混乱は数日間続いた。

イランの港湾海事局は、港湾施設のコンピューターにサイバー攻撃があったのは認めたが、「港湾海事局のシステムへの侵入には失敗し、港湾にある民間の運用システムにのみ侵入して損害を与えることができた」と主張した。イランへのサイバー攻撃は一時的な渋滞や輸送の遅れをもたらしたものの、長期的かつ重大な損害には至っていない。

ワシントン・ポスト紙が本件を最初に報じ、アメリカなど複数の外国政府関係者がイスラエルによる報復のサイバー攻撃と見ているとした。

イスラエル政府は、当初、イスラエルへのサイバー攻撃被害が小さかったため、サイバー攻撃で報復するべきではないと考えていたという。しかし、水道施設などへのサイバー攻撃をイスラエル国内のメディアが報じた後、流れが変わった。

任期終了間近のナフタリ・ベネット国防相以下、イスラエル政府関係者は、イスラエルもイランの民間重要インフラ施設を同じように攻撃し、海外のメディアにニュースを漏らすべきだと考えるようになった。ニューヨーク・タイムズ紙が報復の舞台裏を明らかにした。

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