「イスラエル・イラン」サイバー攻撃応酬の実態 各国の「能力強化、人材選抜方法」の中身とは

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その後、イスラエル・イラン間のサイバー攻撃は今のところ報じられていない。しかし、市民の生活や生命にも大きな影響を及ぼしかねない民間インフラへのサイバー攻撃の応酬が政府によって立て続けに行われたのが事実であれば、両国間の緊張関係が新たな段階に入ったことを示唆している。今後もこうした攻撃が行われる可能性は十分あり、注視が必要だ。

実は、イランがサイバー攻撃の能力強化に乗り出す大きなきっかけとなったのは、イランのウラン濃縮施設へのサイバー攻撃だった。アメリカとイスラエルによる攻撃と見られる。2009〜2010年にかけて、イラン中部のナタンツにあるウラン濃縮施設の遠心分離機のうち1割にあたる1000基が破壊され、イランの核兵器開発が1年半から2年遅れたとアメリカ政府は見ている。

このウラン濃縮施設は、安全確保のためインターネット接続されていなかった。そのため、アメリカとイスラエルはイランの技術者の中に協力者を得て、ウイルスを仕込んだUSBメモリを施設内にこっそり持ち込み、ウイルス感染を広げた。

インターネットにつながっていなくても攻撃できる

インターネットにつながっていなくても、サイバー攻撃で機器の破壊という実害も与えられる。サイバー攻撃といえば情報を盗むもの、という人々の固定観点にコペルニクス的転回をもたらし、その後の国家によるサイバー攻撃のあり方を変えた分水嶺的事件だ。

この事件でイランは教訓を学び、サイバー攻撃技術の獲得に注力し始めた。米陸軍戦略研究所によると、2011年後半、サイバー技術の獲得のためにイランが投資した額は、少なくとも10億ドル(約1070億円)に及ぶ。2019年時点でも、イスラム革命防衛隊のハッカー部隊の予算は10億ドル以上と推定される。

一方、日本の2012年度の情報セキュリティ当初予算は172億円強、2019年度でも、イランの予算の65%の713億円弱である。なお、2019年のイランの国内総生産(GDP)は4850億ドル(約52兆円)、日本のGDPはその10倍以上の553.7兆円だ。

一方、イスラエルもサイバーセキュリティ、サイバー攻撃能力の獲得に力を入れている。イスラエル国防軍軍事諜報部門の下にサイバー部隊の「8200部隊」が存在するが、機密度の高い任務を担っているため、部隊規模はよくわかっていない。スイス連邦工科大学チューリッヒ校が2019年に出した論文では、5000〜1万人とかなり幅をもたせた見積もりをしている。

本部はテルアビブ市内にあるが、部隊はイスラエル各地に点在している。テルアビブの北に位置し、IT企業が数多く集まるヘルツリーヤにも、大きな基地がある。

8200部隊出身者は退役後、軍で得た人脈と知見を生かし、サイバーセキュリティ業界で活躍している。イスラエルのサイバーセキュリティ企業で働いている人材の経歴を見ると、この部隊の出身者が多い。

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