アメリカの「三重苦」が「株価急落」を招く懸念 株価は絶好調だが、かなり楽観的すぎないか

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トランプ大統領は5月30日、州政府からの要請があった場合には連邦軍を派遣するとの用意があることも表明した。これは極めて異例の事態で、前回は1992年のロサンジェルス暴動にまでさかのぼる。そのときも、黒人青年が白人警察官に暴行を受けた後、この警戒が無罪になったことへの抗議が発端となった。人種差別に対する抗議行動を、警察や軍が強権によって抑え込もうとすると、返って暴動が激化しかねないだけに、行政の対応にも慎重な態度が求められる。

新型コロナの感染再拡大も依然大きなリスク

こうした一連の問題は、ようやくロックダウンを緩和する動きが見られるようになり、活動再開への期待が高まりつつあった米国にとって、二重の意味で大きな打撃となるだろう。

一つは暴動によって、都市機能がさらに麻痺してしまうことの影響だ。夜間の外出禁止令は、夜間にはさらに厳しいロックダウンが行われるということだし、昼間でも抗議行動に伴うトラブルに巻き込まれないようにするため、外出を控える人が多くなる。略奪などを恐れ、スーパーなどでも営業を見合わせるところが出てくる。ディスカウントストア大手のウォルマートやターゲットなどは、一部の店舗を閉鎖した。

もう一つは、抗議行動に多くの人が参加することによって、新型コロナウイルスの感染拡大のペースが改めて速まるリスクだ。今回はフロイドさんが首を押さえられた際に警官に訴えた、“I can’t breeze”(息ができない)という言葉が抗議行動のキーワードとなっているが、これを人々が大きな声で叫ぶことは、新型コロナウイルスの感染防止の観点では、最悪の状況と言わざるを得ない。このことによって感染が再拡大するなら、再びロックダウンが強化され、経済活動の停滞もさらに長期化することになるだろう。

話を中国問題に戻そう。5月29日のトランプ大統領の会見では、香港に対する貿易上の最恵国待遇を撤廃するなどの制裁措置が打ち出された。

だが、新たな関税の賦課など、米中貿易合意に直接影響するような措置はひとまず見送られた。市場ではこれを前向きに好感。米中関係の悪化など何もなかったかのように、6月5日の株式市場では、雇用統計が市場予想を上回ったことがきっかけとなってナスダックなどは取引時間中の史上最高値を更新した。

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