アメリカの「三重苦」が「株価急落」を招く懸念 株価は絶好調だが、かなり楽観的すぎないか

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一方、トランプ大統領はトランプ大統領で追い込まれている。株価の上昇と経済や雇用の力強い回復という実績をアピールすることで、この秋の大統領選挙で再選を果たそうという計画が、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって全て崩れ去ってしまったからだ。

現在、彼が取ろうとしている戦略は、「感染拡大に関しては中国に大きな責任がある」と、コロナ問題も株価の急落も、全て中国が悪いという風にまくし立て、自らの責任をうやむやにしようというものだ。

そのようにして「中国脅威論」「中国悪玉論」を展開したうえで、恐らくは対立候補となる民主党のジョー・バイデン元副大統領では中国にいいようにしてやられるだけで、「中国をきっちりと抑え込めるのは自分しかいない」と、再選の正当性を訴えようというわけだ。

もし大統領がこのような戦略に重点を置くのであれば、この先中国に対する圧がさらに強まるのは想像に難くない。

中国にかなりの譲歩をしてまでもまとめ上げた貿易交渉の第1段階の合意も、株を上げたいがためにやったことだと言ってもいい。

本当にアメリカの経済は回復基調を維持できるのか

だが今となっては、トランプ大統領にはそれほど重要なものではなくなっているかもしれない。中国のこれからの出方次第では、簡単にこれを破棄して新たな関税を賦課することになる可能性もある。

少なくとも現時点で、アメリカと中国の双方の首脳にとって、経済の回復が最優先課題ではない可能性は高いはずだ。

状況次第では株価の急落は覚悟の上で、相手に対してさらに厳しい措置を打ち出すことも、十分にあり得るのではないか。

足元の景気の大幅な落ち込みだけでなく、「米中の緊張のさらなる高まり」、「新型コロナウイルスの感染再拡大のリスク」、「ミネアポリスの事件に対する抗議行動の激化や治安の悪化」という「三重苦」が、アメリカ経済にのしかかろうとしている。

こうした問題を抱える中、果たしてアメリカの株式市場はこの先も順調な回復基調を維持できるのであろうか。その大きな根拠になっているのは、7-9月期以降の同国経済の急激な回復だけというのであれば、いかにも心許ないというのが正直なところだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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