「あつ森」は「お金の仕組み」を学べる最強教材だ プレーヤー間で独自に進化する金融システム

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たぬきバンクが金利を操作することで一部の住人行動をコントロールしたように、現実世界でも、日銀のような中央銀行が政策金利を操作して、金融面のバランスを保つように努めている。

具体的には、企業が資金調達する際の負担を軽減させるために、日銀は金利を引き下げて景気を刺激する。また、景気が過熱しそうなときは、お金を借りにくくするために、日銀は金利を引き上げて景気を抑制するといった金融政策を実行する。

たぬきバンクの預金金利は月0.05%と、従来の10分の1という超低金利状態となった。くしくも、足元の日本も超低金利の金融政策がとられている。市中のネット銀行の預金金利は年利で0.02%、メガバンクなどの有力行になると0.001%と、はるかに厳しい金利で銀行にお金を預けることとなる。

このような低金利な状態下では、一般には株式のような比較的利回りの高い金融商品が投資家に好まれる傾向にある。そんな原則を知ってか知らずか、あつ森の住人が次に目をつけたのが「カブ」だ。

あつ森にはカブと呼ばれる、株式に近い性質のアイテムが存在する。カブには毎日変動する「カブ価」がついており、そのときのカブ価で換金できる。安いときにカブを購入し、高いときに売却すれば、最大で元手の5倍以上の「ベル」を入手できるのだ。

預金金利が下がったときに「カブ」のようなアイテムを選好する動きは、まさに現実の金融市場と似た動向であるといえるだろう。株価の変動要因はさまざまあるものの、利下げは一般的に株価上昇をもたらす要因であるとされる。

たぬきバンクの預金金利に期待できなくなった住人にとって、次に一定の利回りを期待できるアイテムはカブということになるだろう。ここで、住人のカブ取引をめぐる環境が足元で一層高度化していることを見逃してはならない。それはカブを用いた「裁定取引」の流行だ。

プロ投資家と同じ行動をとる住民

裁定取引とは、同じ商品が有する価格差を利用して利益を得ようとする取引である。例えば、ある古本屋で漫画が100円で売られているとして、隣の古本屋でその漫画の買取価格が150円だったケースを考えよう。このとき、元の古本屋で漫画を購入し、隣の古本屋で売却すれば、ノーリスクで50円の利益を得ることができる。

これと同じ現象が今、あつ森で起きている。プレーヤーはネットワークを介して、現実世界の友人や知人が住む他の島に行き来することができる。カブ価はプレーヤーが住む島ごとに異なる。そのため、「安く買ったカブを、SNSなどで知り合ったフレンドの島で高く売る」ことによって、ノーリスクで大金を手にできるのだ。

自分の島で安く買ったカブを持って海を渡り、他の島で売って利益を出す行動は、江戸時代に見られた「金相場の裁定取引」を彷彿とさせる。

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