日本人の「命と健康」は生産性向上でのみ守れる 「アベノミクスの生産性向上」はもう限界だ

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アベノミクスで生産性が向上したのは、労働参加率が高まったからです。一方の労働生産性がそれほど上がっていないのは、先に見たとおりです。

当たり前ですが、労働参加率をいつまでも高め続けることはできません。そして日本の労働参加率はすでに、過去最高の水準まで上昇しています。女性の参加率もかなり高くなっています。今後、高齢者の参加率が上がる余地はまだありますが、高齢者の場合、1人あたりの生産性は若い人より低いですから、労働生産性向上に貢献してもらうには限界があります。

さらに2020年代の後半となると、人口の絶対数の減少が加速するので、どんなに労働参加率を高めても、就労人口の絶対数は減っていきます。

となると、残されている選択肢は「労働生産性」の向上しかないのです。日本はこれから、労働生産性の向上が求められていきます。

労働生産性の向上は経営者にかかっている

労働生産性は、個々の企業経営者の努力なしに高まることはありません。だから私は、たとえ飴と鞭を使って追い詰めてでも、経営者に生産性を向上させる強いインセンティブを与えるべきだと考えています。

そのための最低賃金引き上げ(参考:コロナ不況でも「最低賃金引き上げ」は必要だ)であり、企業規模拡大の促進(参考:「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ)です。

すべては社会保障の崩壊を防ぐため。日本人の皆さんの命と健康を守るためなのです。

【補足:生産性と労働生産性の関係】
生産性÷労働生産性
=(GDP÷人口)÷(GDP÷就業人口)
=(GDP/人口)×(就業人口/GDP)
=就業人口/人口
=労働参加率
両辺に労働生産性をかけて「生産性=労働生産性×労働参加率」が導かれる。
デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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