「コロナ後の大学」に求められる唯一無二の役割 世界を救う大学発ベンチャーを育成できるか
日本の大学でもTLOは徐々に増加・充実しているが、アメリカの大学のほうがより歴史も古く成熟している。一般にTLOは、研究者と連携し、特許になりそうな技術を評価・特許出願するほか、投資家や事業会社に営業したり、ライセンス契約書作成などの業務を行う。
TLOによる技術移転は、主に2つの手法がある。1つは、伝統的な研究結果の技術移転だ。
技術に興味を持つ投資家・事業会社が大学と技術移転契約を結び、契約金の一部が研究者に還元される。研究者は大学との雇用契約の際に、研究の特許は所有しつつ、特許実施権を大学に譲渡し、将来商業化された場合、契約金額の一部が還元される仕組みになっている。
2つ目は、大学発ベンチャーへの技術移転だ。
研究室で成果が出たらTLO経由で特許を出願するという点では1つ目の手法と違いはないが、ベンチャーキャピタルなどの投資家が研究内容にすでに目を付けている場合、研究者自らが大学発ベンチャーを設立し、大学から特許実施権を購入するという流れになる。
かつては投資家が出資した資金で研究者が特許実施権を購入していたが、現在ではアメリカの大学の多くが、ベンチャーの発行済み株式3〜5%を対価として特許実施権を譲渡しているようだ。
これについて、日本とアメリカのイノベーション事情に詳しく、アメリカのエンジェル投資家で、自身も医薬品ベンチャーを創業し上場させた実績を持つ、Takashi Kiyoizumi(清泉貴志)医学博士は次のように評価する。
大学にとっては、失敗した場合は特許費用などが損失になるが、成功した場合はそれ以上の利益を得られる。一方、ベンチャーにとっては、特許実施権の購入に際して大学に現金を支払う必要がないので、運転資金をセーブできるという大きな利点がある。
日本とアメリカの"差"を生む根因
アメリカと違って、日本では2つ目の手法が少ない。TLO自体の経験が浅く、成功例も少ないためだろう。また、日本のTLOには専門家が少ないので、評価力や企業との交渉力が不足しているところが多い。
著名な例としては、ノーベル賞を受賞した北里大学の大村智・特別名誉教授が開発した「イベルメクチン」を、アメリカの大手製薬会社メルク社が「3億円で買う」と提案してきたところ、大村氏はもっと価値があると考え、ロイヤルティ方式を提案。結果、北里大学は200億円以上の収入を得たというケースがあった。
こうした交渉は本来、研究者が自ら行うものではなく、大学内で価値のある研究を見極め、理解し、ビジネス面での交渉力を併せ持つ、TLOが行うべきだろう。
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