捕獲数を減らし自滅、調査捕鯨訴訟で完敗 国際司法裁判所が「科学目的ではない」と指摘

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実は、日本が捕獲数を減らしているワケは、科学を無視した“需給調整”のためだ。国内の鯨肉需要は低迷しており、在庫も00年末の約1900トンから06年末は約3900トンと積み上がっていた。科学的に算出した捕獲数を毎年捕っていれば、データを分析することができ、科学的な調査であると胸を張って言える。それを果たしていないのだから、実質的な商業捕鯨と批判されても仕方がない。

今回の裁判は、あくまでも南極海での調査捕鯨が対象だ。日本は北西太平洋でも調査捕鯨を行っており、日本から鯨肉がなくなるわけではない。ただ北西太平洋でも科学的根拠をないがしろにして、捕獲数を減らしている。南極海調査捕鯨の批判はそのまま北西太平洋での調査捕鯨にも当てはまり、ここにも影響が出る可能性がある。

商業捕鯨モラトリアムが焦点に

では、日本は今後どうすればいいのか。ICJの判決は、調査の目的と実施が適切であれば、調査捕鯨は合法という内容だ。それに合わせて、調査捕鯨のやり方を早急に組み替える必要がある。

一方で、ICJの判決にも疑問がある。南極海での第2期調査捕鯨を事実上の商業捕鯨と認定し、国際捕鯨取締条約の付表10条e項に定めた「商業捕鯨モラトリアム」などに違反するとした点だ。

商業捕鯨モラトリアムとは、国際捕鯨委員会が1982年に定めたもの。大型鯨類13種を対象とした商業捕鯨を事実上、禁止している。制定された当初は、1990年までに包括的な評価をしてモラトリアムを見直すという条件があったが、国際捕鯨委員会は反捕鯨国が多数を占め、科学的根拠を無視しており、現在も見直されていない。

そもそも、国際捕鯨取締条約の前文は「鯨族の適当な保存を図って捕鯨産業の秩序のある発展を可能にする」とうたっている。同5条では科学的根拠に基づく資源の持続的利用を定めており、モラトリアムはこれに反している。

国際捕鯨委員会によれば、南極海にいるミンククジラは約52万頭。大型鯨類の年間増殖率は4%といわれており、これに当てはめると年間約2万頭増える計算になる。濫獲しないかぎり、持続的に利用することは可能だ。モラトリアム撤廃のために、日本が反捕鯨国を相手に訴訟を起こす手段もある。

将来的な商業捕鯨の再開に向けては、低迷する鯨肉需要を喚起することも重要だ。長い間、鯨肉は供給が少なかったため、在庫がある現在も珍味として高価格で販売されている。購入するのは、小さい頃に鯨肉を食べていた中高年層が中心で、世代が若くなるほど、なじみは薄い。まずは鯨肉の供給を安定的に増加させ、価格も引き下げて、消費者との接点を多くすることが必要になる。

今回のICJの判決では、日本の対応のまずさが浮き彫りになった。今後汚名を返上するのか。このまま、なし崩し的に後退するのか。商業捕鯨再開への本気度について政府の姿勢が問われる。

週刊東洋経済2014年4月19日号〈4月14日発売〉 核心リポート01に一部加筆)

小松 正之 国際東アジア研究センター 客員主任研究員
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