著名人も強く関心!「種苗法」改正の大問題 野菜や果物のタネに「著作権」は必要なのか
サカタのタネ(本社:神奈川県横浜市)が東の横綱なら、西の横綱はタキイ種苗(本社:京都府京都市)だ。世界各地に拠点があり、野菜種子でサカタのタネと遜色ない、事業規模を誇る。そのタキイ種苗が2018年4月に更新した世界の種子市場の推計データでは、約3兆2400億円の世界規模の内訳は、穀物種子が2兆7000億円、野菜種子が約5000億円、草花種子が約400億円。野菜種子のうち日本の市場規模は約17%となっている。
日本の農作物は農協系統という独特の流通チャネルを持つため、国内に拠点を置く外資系農薬・種苗メーカーが目立つ存在となっていない。ただ、仏種苗大手リマグラングループのように、千葉市に本社があるみかど協和を傘下に置き開発体制を敷いているところもある。
では今後、資本力のある海外の農業化学分野の4大メジャー(独バイエル、米コルテバ、スイス中・シンジェンタ、独BASF)らが、日本国内で開発企業や改良品種の育成者権を買収する可能性はないのか。ある業界関係者は「独自の研究開発で外資が持たないノウハウと蓄積がある日本市場は外資にとって魅力的。末端ではない最上流なので入り込みやすいかもしれない」と見通す。タキイ種苗は非上場企業だが、サカタのタネやカネコ種苗(本社:群馬県前橋市)は、東証1部上場の企業。そのため株式市場で買い占めによる買収リスクにさらされている。
海外流出しても儲かる工夫が必要だ
つまるところ種苗法改正は、国際競争力を維持向上するという将来展望の観点で、その必要性が問われている。大規模資本による市場独占や高コストで一般農家が苦しむ懸念があるからだ。
2017年8月に施行された農業競争力強化支援法は、地方自治体など公的試験場の研究成果を民間に提供し、官民協同で新品種の開発・供給と知財戦略を進める流れを促した。「政府は輸出方式を想定し、ルールを厳格化している。海外に分け与えて利用許諾ビジネスをしたり、現地で品種登録をして現地で売ったりする方法もある。いずれにせよ種苗が海外流出してもある程度は儲かる工夫が必要だ」(神山准教授)。
ちなみに野菜農家では、キュウリやトマト、ナスのような果菜類を、温室やビニールハウスで栽培するのが主流。病気や害虫対策として有効な接ぎ木苗の利用が増えている。2つの苗の長所を生かす接ぎ木苗の生産は、種子を発芽させそのまま育てた実生苗と比べ、「高いレベルの技術と多額の設備費用がかかる」(接ぎ木苗最大手のベルグアース)。「異業種による新規参入は困難」(同)だが、技術流出リスクは常にある。栽培方法なので種苗法の対象とならないものの、「特許や営業秘密で権利保護を図ることが必要」と農水省食料産業局知的財産課の担当者は語る。
業界関係者によると、野菜や果物に比べて、個人で育種事業を営む農家(ブリーダー)が多いのは民間の花農家だ。しかし、新型コロナの影響でイベント需要が激減。大手ネット通販で人気の花農園らを除けば、草の根ベースでの育種開発が止まってしまう危機に瀕する。
結局、改正種苗法は、6月17日が会期末となる今国会での成立を断念。秋の臨時国会で改めて賛否を問う論戦が行われる見通しだ。本来なら2021年4月施行(一部は2020年12月)を目指していた。前述の知的財産課の担当者は改正の意義について、「従来は立証が難しかった育成者権の侵害を立証しやすくなる」と強調するが、政府の専門機関が実効力を持つのか、結果が伴わないとわからない。
今はコロナ禍で経営難の採種農家を支援することが喫緊の課題。知的財産保護への意識徹底と併せ、盗難防止に対する設備拡充への資金援助を、政府の専門機関と地方自治体は率先して行うことが肝要だろう。
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